北新地競馬交友録

労働者

今年の4月から『働き方改革法』が施行される。
残業時間の上限規制で、時間外労働の上限が月100時間、年720時間に設定され、月45時間を超える月は6ヶ月までかつ複数月平均80時間を上限とする。
更に有給休暇の取得の義務化、勤務間インターバル制度、中小企業への割増賃金率の猶予措置の廃止、高度プロフェッショナル制度の創設etc。
まさに時代の流れで結構な事であるが、その昔は働きまくる事が尊いとされた時代があった。
その象徴が、時任三郎君の『リゲイン』のテレビCM。
30秒のCMの中で歌われている歌詞が凄い。

※黄色と黒は勇気のしるし
24時間戦えますか
リゲイン、リゲイン、
ぼくらのリゲイン
アタッシュケースに勇気のしるし
はるか世界で戦えますか
ビジネスマン ビジネスマン
ジャパニーズ ビジネスマン※

有給休暇に希望をのせて
ペキン・モスクワ・パリ・ニューヨーク
リゲイン、リゲイン、
ぼくらのリゲイン
年収アップに希望をのせて
カイロ・ロンドン・イスタンブール
ビジネスマン ビジネスマン
ジャパニーズ ビジネスマン

瞳の炎は勝利のしるし
朝焼け空にほほえみますか
リゲイン、リゲイン、
ぼくらのリゲイン
心の誓いは正義のしるし
星空こえてかがやけますか
ビジネスマン ビジネスマン
ジャパニーズ ビジネスマン

当時、日本の労働者はかくほど左様に働いていたが、競走馬でも日本版走る労働者と云われた馬がいた。

「この『京都記念』関西馬も舐められたもんだ。均のカシマウイングが58.5も背負わされるのに、58キロで出走出来る『目黒記念』をパスしてこっちをチョイスするなんてョ。いくら本番の『春天』の試走だからって58.5はナンボなんでも酷量だ。しかもだぜカシマウイングはデビューしてから走りも走ったり33戦。『有馬記念』『アメリカジョッキーC』で好走したからってもうヨレヨレ。これが1番人気で3.4倍なら6倍付く村本の兄貴54キロのメジロゴスホークの方に馬券的妙味がある。屋根も安全運転ばっかで、右見るヨロシイ!左見るヨロシイ!の的場均よか、難波のど根性兄貴、村本善之の方を俺ぁ買ってっからョ。2番人気のマヤノオリンピアはどうかって?お父さんこの時期は前々で競馬出来なきゃダチカンだろう。村本の兄貴が、出がらしみてぇな関東馬を蹴散らしくれるはず」
聞かれてもいないのに長講釈は、マスターの昔からの悪い癖である。

「4コーナーを回ってスピードヒーローが先頭!外からカシマウイング!」
番手に付けていたメジロゴスホークが早くも脱落する展開に、「ダミだ〜!村本の野郎もう売り切れかョ。ちいとは性根見せんかい」とマスターが毒づくも……..。
「スピードヒーロー先頭!スピードヒーロー先頭!3連勝なるか!カシマウイングが迫る!外からマヤノオリンピアも差してくるが!カシマウイングが先頭に変わった!スピードヒーロー粘る!スピードヒーロー粘る!カシマウイングが先頭でゴールイン!」
1着 カシマウイング 的場均J
2着 スピードヒーロー 武豊J
3着 メイショウエイカン 猿渡重利J
7着 メジロゴスホーク 村本善之J

「ちィ!恐れ入谷の鬼子母神たぁこの事だ。漬物石背負わされてんのにカシマウイングの強ぇの強くねぇのって。馬場の真ん中から堂々と抜け出して押し切るなんざ〜並の馬じゃあ出来ねえ芸当だ。均の野郎もやけに落ち着いてやがった。それに比べて善之の野郎4.5キロの貰いなのに、あっと云う間にヘコタレやがって、メジロの冠が泣きまするだ。給料日まで後まだ4日もあるじゃねえか。霞食っとけ!てか。あまりと云えばアマリリス。善之の野郎に銭借りに栗東に出張るか」と何時もながらの嘆き節であった。

時任三郎君のリゲインのテレビCMがバンバン流れ。
ジャパニーズビジネスマンは倒れるまで働く事が尊いと刷り込まれ、カシマウイングもヨレヨレになりながら走り続けた。
(この『京都記念』の後、脚を痛めて1年の休養)
1988年、もう30年以上も前の事である。