北新地競馬交友録

原風景

ひと昔前は、北風がピーピューと吹き荒れれば、炬燵に脚を突っ込み蜜柑の皮を剥き剥き、面白くもない番組をテレビで見るぐらいしかなかったが、今はネットで好きな物や新しい事柄に触れる事が出来る。
随分と便利な世の中になったものである。
そんなこんなで先日ウォッチングしていたら、一枚の写真が目に留まった。
建設中の『黒部川第4発電所』の勇姿である。

タイトルは「土木が原風景となる時(2)世紀の大工事を経て完成した『黒部川第四発電所』」
吉川弘道さんと云う土木工学の大学教授が、「社会インフラ(土木施設)の姿形・フォルムを、最も輝く形としてお伝えしたい。ダム、橋、トンネル、空港など全国各地にて供用されている土木施設から、『選りすぐりの名場面』を編集し、土木の世界へ誘います。題して、『土木が原風景となる時』。土木がもっと好きになる6つの物語です」と書いていた。

『黒部川第4発電所』『黒四ダム』。
名前だけは聞いた事はあったが………..。

『地上の星』 by みゆき中島

風の中のすばる
砂の中の銀河
みんな何処へ行った 見送られることもなく
草原のペガサス
街角のヴィーナス
みんな何処へ行った 見守られることもなく

地上にある星を誰も覚えていない
人は空ばかり見てる

つばめよ高い空から教えてよ 地上の星を
つばめよ地上の星は今 何処にあるのだろう


崖の上のジュピター
水底のシリウス
みんな何処へ行った 見守られることもなく

名立たるものを追って 輝くものを追って
人は氷ばかり掴む

つばめよ高い空から教えてよ 地上の星を
つばめよ地上の星は今 何処にあるのだろう

名立たるものを追って 輝くものを追って
人は氷ばかり掴む


風の中のすばる
砂の中の銀河
みんな何処へ行った 見送られることもなく

つばめよ高い空から教えてよ 地上の星を
つばめよ地上の星は今 何処にあるのだろう

恥ずかしながら、初めて『黒部川第四発電所』がどんなものなのかを知ったのは、みゆき中島の唄が流れる、NHKの大人気番組だった『プロジェクトX』。
2005年初秋2回に渡って放送された、「シリーズ黒四ダム⑴ 秘境へのトンネル 地底の戦士たち」、「シリーズ黒四ダム⑵ 岩壁に立つ 巨大ダム一千万人の激闘」。
当時の逼迫した電力不足を解消するために、命がけでダムの建設に挑む男達の姿に心底胸を打たれたのである。

「あ〜あ、今年の有馬は全然面白くねえな〜。どうせ豊のディープインパクトが楽勝こくんだろ。なんない!あんなおぼっちゃま君なんて応援する気にゃ〜なれねえぜ。俺ぁ〜筋金入りの落ちこぼれだからョ。対抗出来るとしたらデザーモのゼンノロブロイだろうが、単勝2.1倍堂々の1番人気だった『ジャパンC』の、ま〜情けねえ事。デットーリのアルカセットに、イチコロパン!でオソボにされてんだからどうしようもねえョ。4歳でまだ活きのいいとこでは、ペリ公のデルタブルースか。しかしな〜前走ウルトラ長距離『ステーヤーズS』は勝ったが、2500の『アルゼンチン共和国杯』では、7歳のジイさん横典のコイントスにまで負けてんだから…….無理だろう。6.8付くならゼンノロブロイの単勝をチョコっと買ってお茶を濁すか、な〜お父さん」聞かれてもいないのに長講釈はマスターの昔からの悪い癖である。

その話しかけられたお父さんだが、寒さ対策か酒を昼間からかっくらって、船を漕いでの白川夜船。
「お父ちゃん、起きて、起きて〜な。もう直ぐディープインパクト走るよ」と身体を揺すっているのは、モコモコのダウンジャケットを着た小学校低学年とおぼしき女の子。
少し時代遅れとも思えるオカッパ頭がキュートだ。
やっと目を覚ましたお父さん、「有馬か、有馬やな。ディープインパクト買わなあかんがな」
12月にしては暖かい阪神競馬場の外のベンチからむっくりと起きあがり、馬券売り場に向かったのたのだが……….。

「第4コーナーから直線!先頭コスモバルク!コスモバルク!ハーツクライもくらいつく!リンカーン来た!リンカーン来た!外からディープインパクト!200を通過坂を上がって来る!ハーツクライ先頭!ハーツクライだ!ディープインパクト2番手!ハーツクライ!ハーツクライ!ゴールイン!ルメール手を上げた!ハーツクライです。ついに、ついにG1ホースとなりました!無敗のディープインパクト破れる!」
1着 ハーツクライ ルメールJ
2着 ディープインパクト 武豊J
3着 リンカーン 横山典弘J
8着 ゼンノロブロイ デザーモJ

「お父ちゃん、ディープインパクト負けたやんか。何で?何で負けたん?お父ちゃん絶対負けへんいうてたやん。ねえ〜何でなん?」
オカッパ頭に身体を揺すられても無言のお父さん。
やっと口を開いて出た言葉が、「お母ちゃんには競馬場行ってた云うたらあかんで。『王子動物園』で象見たと云うんや。判ったな」
「…………..何でディープインパクト負けたん?な〜お父ちゃん」
「知るかい!豊に聞け」
「……………………….」

『黒部川第四発電所』が土木関係者の原風景の一つなら、この『有馬記念』がマスターにとって競馬場の原風景の一つなんだとか。
2005年から時は流れて13年、オカッパ頭も別嬪さんになっているに違いない
さ〜!『有馬記念』だ!