北新地競馬交友録

ご縁

『一樹の陰一河の流れも他生の縁』
この世で生じる出来事はすべて運命であり、ぞんざいに扱ってはいけないという意味。
知らない者同士が偶然木の陰で雨宿りをしたり、同じ川の水を飲むことは、すべてめぐり合わせであるということが由来とされている。
この世で起こる全ての出来事は前世からの因縁だという訳だ。

「ボナセーラ!」
ググってすっからかんのオツムに叩き込んだイタリア語を、忘れない内にとベシャったのは、大阪北新地でヨレヨレになりながもBARを営んでいるマスター。
京都馬主協会会員のS社長が、JRAの某ジョッキーと、短期免許でマネーをカッパギに来た某イタリア人ジョッキーを連れて来てくれた。
最近では日本語もスムーズに口から出ない体たらくだが、いかつい顔に笑みを浮かべて接待にこれ勤めていたのは、今週の木曜日の事である。

「マスターおはようございます。土曜日はえらい目に合いましたね」と、競馬友達のK君。
「あ〜あ。人外がいなけりゃ何とかするだろうと稜のシンコーメグチャンを応援したが、まさかあんな気のねえレースをするとは。どスローだって云うのにあの位置でおっとり構えられた日にゃ〜どうする事もナッシングだ。心配した貴志の方がインに拘った乗り方で3着を確保してるのによ。てめえの見立ての甘さが嫌んなる。救いは1万しか放らなかった事ぐれえだぜ。こんな事なら、『中日新聞杯』のギベオンを黙って買や〜良かった」

「つまんないレースでしたね」
「もちろん一生懸命乗ってんだろうが、ペースを全然読めてねえんだもん。ルメ公が乗ってたら無条件で捲りをかましてるョ。まあ〜ピィピィ泣いてマニーが返るなら山のカラスはお大尽!カアーカアーてなもんで諦める。今日は迷いはねえ!『ジュベナイルフィリーズ』はイタリア人にスケて貰う。なんせ、イタリアは先の不幸な大戦の同盟国だしな」
「それ、関係ありますか?」
「そりゃ〜あるだろう、どっかの国も歴史認識!歴史認識といつも騒いでんじゃん」

「は〜あ?」
「は〜あ?じゃねえョ。乃木坂がどうしたこうしたよか、よっぽど大切な事だろうが。発表!ダノンファンタジー単勝に3万!複勝に元返しの6万でいてこます。チイとばかし芝のレースでは安目を売っていたクリスチャンだが、昨日のギベオンの差し返しで、その呪縛からも解放されたはずョ。2日続けての重賞ゲットならアウグーリ!てなもんだ」
「イタリア語でおめでとうですね!」
「何で知ってんだョ〜?」
「伊達に日本で3番目に頭のいい学校出てませんから」
「へい、へい恐れ入りますた」

ご縁を信じてダノンファンタジーに賭けるマスター。
そう云えば、夏前にクロノジェネシスの北村友ジョッキーも来てくれたはずだが……さて。