北新地競馬交友録

地獄から天国

プロ野球の『日本シリーズ』が熱戦を繰り広げている。
そんな中、次々と発表される選手の引退や戦力外通告。
結果を出せなかった選手には厳しい季節の到来である。
「巨人入団1年目にノーヒットノーランをした際に、あのあふれんばかりの“杉内コール”は、これからも忘れることはありません。きょうで引退しますが、父として、長男として家族を支えていきます」と涙のスピーチでグラウンドを後にしたのは杉内俊哉投手。

鹿児島実業高から社会人・三菱重工業長崎を経て、2001年のドラフト3巡目でダイエーから指名を受けた杉内。
入団2年目に10勝を挙げると、日本シリーズMVPも受賞。
2005年には最多勝と最優秀防御率のタイトルを手にして、リーグMVPと沢村賞までもぎ取った。
その後も最多奪三振のタイトルを3度獲得し、12年からはFAで移籍した巨人でリーグ3連覇に貢献。
日本代表としても、五輪に2度、WBCには3度出場し、“世界一連覇”を果たしたメンバーのひとりである。

しかし、ここ3年は一軍での登板機会がない状態。
一番の原因は怪我である。
プライドの塊のような杉内にとっては、何とも耐え難い日々だったのは想像に難くない。
野球選手としては小柄な175センチの左腕から繰り出されるスライダーは、文句なしに天下一品であった。
一軍でスポットライトを浴びた天国と、ひたすら我慢の二軍暮らしで地獄を味わった男の第二の人生はいかに。

「秋天の見立て?そんなもなぁねえ。『学園天国』はフィンガー5だが、『ジンガイ天国』の中央競馬。俺ぁ〜考える事を放棄してっからョ。ルメール、デムーロ、モレイラのボックスでいいじゃん。なまじあれやこれや考えるから馬券から剣突喰らわされる羽目になる。ルメールのレイデオロとデムーロのスワーヴリチャードの馬連を4万。レイデオロとスワーヴリチャードから、モレイラのサングレーザーに馬連で各1万と5千でお帳面さ〜ね」と、半ば槍投げでマークシートを塗り塗りしたマスターだったが……..。

「第4コーナーから直線!キセキ先頭!キセキ先頭!リードが2馬身!3馬身!残り400を通過!アルアインが2番手!内を突いてヴィブロス!外からレイデオロ!お〜外サングレーザー!」
「差せ!差せ!差せ!差しちまえ!」神戸元町ウインズの床が抜けるんじゃないかと思うほどの怒声を張り上げるマスター。
脚色からレイデオロが馬券に絡むのは間違いないが、東京の長い直線でもサングレーザーが届きそうにないと半狂乱。
「キセキ!先頭で踏ん張っているが!レイデオロ!キセキを捉えるか!外!外からサングレーザー!ミッキーロケットも内を突いてやって来た!レイデオロが先頭に替わった!サングレーザー3番手から2番手を伺う!レイデオロだ!レイデオロ!ゴールイン!これがダービー馬の強さ!堂々と天皇賞馬の栄誉を手に王道を突き進みます!」

「ダミだ、将雅のキセキが残ってる」と頭を抱えてしゃがみこんだマスター。
スローを見る気力さえ無くしている。
「マスター!際どいです!差してるかも」はスローを見ていた競馬友達のK君。
「てめえの目は節穴か!俺が今までどんだけヤラレてると思ってんだ」と変な自慢のマスター。
「あ!9です!サングレーザーです!マスターさん、モレイラです」と熊本天草出身○原さん。
「え!マジカル?マジカル!モレイラ?お!おっしゃ!取ったど〜」
手にしたお宝は22万と8千円。
「よ〜し、久々に寿司でも摘むか。K君!大将に繋ぎ入れろ」と破顔一笑だ。

杉内投手じゃないが、天国から地獄は幾らでもあるが、地獄から天国はそうそうあるもんじゃない。
2キロ走って鼻差でゼロが22万8千円になって万歳三唱!とは、競馬はやっぱ怖い(`・ω・´)