北新地競馬交友録

髀肉の嘆

九州春秋曰
備住荊州數年
嘗於表坐起至厠
見髀裏肉生
慨然流涕

劉備が曹操との戦いに敗れ、 荊州の主であった劉表の元に一時期身を寄せる事となった。
その劉備が荊州に住んで数年たったある時、劉表の開いた酒宴の席に出席。
劉備は途中厠へ立ったときに自分の股に肉がついているのに気付き、悲嘆にくれて涙を流す事となる。

何で泣いているのですかと聞く劉表に、「私は今までずっと馬に乗って戦ってきたので、股の贅肉は全くありませんでした。 しかし、今では馬に乗らないため、股に贅肉がついてしまいました。月日は瞬く間に過ぎ、老いが忍び寄ろうとしています。 しかし、私は何の功業もたてていない。それが悲しいのです。」と劉備、これがご存知
『髀肉の嘆』の故事の由来である。

天下の英雄劉備を引き合いに出すのはおこがましいが、神戸元町ウインズ近所の鰻屋○葉で、髀肉の嘆をかこっていたのがマスターだ。

熱中症で倒れた、熊本天草出身○原さんの代わりに馬券購入を請け負い、「中京記念のロジクライに気があります。六甲Sで少し儲けさせて貰いましたから」の発言に乗っかって、単勝9500円、複勝29000円を購入。
「やれ調教だ、持ち時計だ、騎手だ、展開だと必死こいて検討しても、チィとも当たらねえ。道楽出来る余裕もねえのに、毎週オゼゼを撒き散らかしているんだから、俺ぁ大馬鹿野郎ョ。どうせ外れるなら、たまには人に乗っかってみっか」とおっとり刀で張り付けたのだが……….。

「ウインガニオン!マイネルアウラート、アメリカズカップが内外広がって4コーナーから直線!4番手はロジクライ!残り400坂を登る!ウインガニオン先頭!内に切れ込んでロジクライが伸びて来る!」
「ごらぁ!スグル!外行け!外に!何でインの馬場の悪ぃところに突っ込むんな!」と悲鳴を上げたマスターだったが、ここからが渋とかった。
「最内アメリカズカップが粘る!追い込み勢からは外グレーターロンドンが伸びて来る!連れてフロンティア!200を切った!大外はリアイアブルエース!ロジクライをグレーターロンドンが交わした!交わした!グレーターロンドン待望の重賞制覇ゴールイン!」

「マスターおめでとうございます。単勝が惜しかったですね。7倍付いてましたから。それでも複勝が240円付いているならマズは良しですね」と競馬友達のK君。
「裕信も余計な事するよな〜、後ろでゆっくりすりゃ〜いいもんを、シャカリキになって追いやがってョ〜7万両落としたぜ。まあこの土日で久々にプチ儲かったから良しとスッカ」
浜中Jがインに切れ込んだ時に悲鳴を上げた事はすっかり忘れているんだから、人間がお目出度く出来ているのは間違いない。

「おう!姉さん、鰻ざく、肝焼き、特上の鰻丼といこうか。そうさな〜一杯目はキンキンに冷えたおビール、冷酒も一緒に持って来てくれたまえ」
三宮まで歩くのは面倒と、神戸元町ウインズ近くの鰻屋でニコニコ顔で注文をしたマスター。
ビールを一気に飲み干して「プッハー。夏はこれだぜ、これ。分捕ったマニーで飲むおビールは最高ョ」と上機嫌。

「○原さんのお陰ですね。5番人気のロジクライをピンポイント指名。なかなか出来る事じゃあないです。来週はマスターもビシッと決めてくださいね」
それを聞いたマスターのテンションが一気に落ちた。
「あ〜あ、何ちゅうか本中華、馬券愛好家歴40年を超える俺が、死ぬ気で検討しても当たらねえのに、ど素人みてぇな○原さんが当たるんだもんな〜。ほんの2〜3年前までは少々ハズレても、競馬なんてもんは当たったりハズレたりするから面白ぇんだ。毎回当たったらつまんねえじゃねえか。なんて嘯いていたのが嘘のようョ。70過ぎの爺さんに乗っかって、当たった!当たったなんて、情けねえ人間に成り下がっちまったぜ」と自虐モードに突入。

「仕方ないです。最近の競馬はどの馬もしっかり仕上げて来てますから、そうそう当たるもんじゃないです」
「ひと昔前なら36もレースがあったら、見下ろしでコレってぇのが1つか2つはあったが……..いいわ、いいわで張り付けてたら俺も赤いちゃんちゃんこを着る歳になっちまった。競馬やめて釣りにでも転向すっか、でも釣りじゃ〜一銭も儲かんねえしな〜。こんな事いつまで続く事やら」
「マスター深く考え過ぎです、無理のない範囲で楽しめばいいんじゃないですか?」
「君、無理のない範囲って、そったら事云ってたら馬券なんて一切買えねえじゃん。
あ〜あ、サマージャンボ宝くじでも買うか」
K君相手に髀肉の嘆にくれるマスター。
先行きはどうも多難なようである。

皆様、お付き合いありがとうございました。
明日も続きます。