北新地競馬交友録

サイン馬券 その2

東京の銀座にはボロ負けだが、大阪の北新地も捨てたものではない。
狭い地域に約5千軒と云われる飲食店がひしめき合っている。
最近では普通の勤め人達が我が物顔で闊歩しているが、絶滅種と云われながらも、古き良き北新地を守っておられる方々がいる。
ホームグラウンドは、座ってうん万円の倶楽部活動でも、ご縁が出来た店に験付けと称して出没。
短時間でババン!とお金を文字通り落として「頑張りや」なんて粋な振る舞い。

そう云う方達は大概が寂しがり屋さんで、「今、○○○○○や。顔出しいな」と、黒服や贔屓の店の人間を呼びだすのである。
マスターの店にも先週木曜日、ひょんな事でご縁が出来た○○社長が初来店。
テレビCFでもお馴染み、名前を云えば小学三年生でも知っている有名企業である。
因みに北新地での通り名はパパ。
この方がすこぶる付きの寂しがり屋で、来店した時はお二人だったが、全員集合の呼び出しがかかり……..。

「ん?女将?完全に男だがね」
そのパパに呼び出されて来た内のお一人の名刺を見て首を傾げるマスター。
それも暫くすると納得。
見かけは男性でも仕草は女性で、シャンパングラスを持つ手の小指はしっかり立っている。
所謂、そちら傾向のお店の方なのだと判明した。
木曜日に続いて、土曜日にもパパが来店。
また、また呼び出された女将。
これがサインだったと気が付くのは日曜日の東京メイン『フェブラリーS』直後の事である。

「直線に向かってゴールドドリーム中段外まで押し上げる!残り400!ニシケンモノノフ僅かに先頭!交わしてケイティブレイブ!外から接近テイエムジンソク!しかし一気にやって来たゴールドドリーム!馬群の内目からレッツゴードンキ!間からインカーテンション!」
絶対的本命のゴールドドリームが勝つ態勢なのは良しでも、同枠のレッツゴードンキ、インカーテンションは一文も買ってないマスターが思わず「やめてけれ!」とシャウトする神戸元町B館5階。
また、また馬券がゴミになるピンチだ。

「ゴールドドリームが先頭!後方からノンコノユメが突っ込んで来る!」
「いてまえ!オ○マ!」と更に一声。
「200を切った!ゴールドドリーム先頭だが内から迫るインカーテンション!外から!外からノンコノユメ!ノンコノユメ!ゴールドドリームを交わすか!交わした!ノンコノユメ!先頭でゴールイン!2着ゴールドドリーム!3着インカーテンション!ノンコノユメ悲願のG1奪取だ!」

レース前、「今年初めてのG1『フェブラリーS』はサインが出た」
「何ですかそれ?」と聞く熊本天草出身○原さんに、「超ナルシストのあんちゃんが、氷の上を飛んだり跳ねたりして、金メダルを取ったじゃねえか。金メダルとはなんない?ゴールドだろう。よってゴールドドリームが来る」
「サイン馬券ですか(≧∀≦)しかもそんな単純な」と呆れる○原さん。

「あ〜どうせいくら考えても当たらねえんだから、サイン馬券上等だがね。発表!ムーアのゴールドドリームの7枠から、フルキチ先輩のテイエムジンソクの5枠に4万、同じく伸び盛り圭太のサンライズノヴァの8枠に4万。もと取りでウチパクのノンコノユメの6枠に1万。ムーアの野郎が大出遅れした時の保険で5ー8に1万でいてこます」と結論付けていたマスター。

「あ〜あ、枠の6ー7は取ったが、元返しもねえ870円の配当。10万張って8万と7千しか帰って来ねえ松村和子よ。なんじゃ!こりゃ」
「サイン馬券で救われましたね」
「違うんだよ!」
「何がですか?」
「先週、店に大社長が2回もオ○マちゃんを連れて来てくれたんだ。ノンコだろ!騸馬のノンコしかねえじゃん。俺ぁ自分の感の悪さにほとほと愛想が尽きた。後で気が付く寝小便たぁこの事だ」
「………………..」

余りの馬鹿馬鹿しいトークに、やってられないと両手を広げて「どもなりません」のポーズは○原さん。
マスター!今週もサイン馬券か(笑)