北新地競馬交友録

笑う門には

思いもかけず、顔の神経に異常をきたしたマスター。
一ヶ月が過ぎ快方に向かいつつあるが、どんな関係があるのかは定かではないものの、兎にも角にも肩が凝る。
ならばとマッサージに向かうのは、大阪駅前ビル。
第1〜第4までの4つのビルに、マッサージ屋が星の数ほどある。
可愛いらしいお嬢さんが、マッサージをしてくれるお店は楽しいが、どうにも気を遣うんだとか。
「もっと力を入れろよ!」なんて凄むのは痛しいからだ。
よって贔屓は『◯リート』
「あたたた〜(・_・;もうちっくらソフトにお願いちまつ」
ここの従業員は8割が男性。
しかも胸に付けている名札の表記は漢字一文字の方達が殆どだ。
マスターが指名するのは顔さん。
「ユー!人民解放軍出身か?」と云うぐらいガタイがいい。
昨今のカントリー同士の仲の悪さを反映するかのように、憎しみを感じるぐらいハードに揉んだり押したりするもんだから、効果抜群だがたまに悲鳴を上げる事になる。

マッサージと云えば、年配の方なら皆さんご存知だったのが、故浪越徳次郎大先生。
「指圧の心は母心、押せば命の泉湧く。アッハッハー!」の名台詞でお馴染みだ。
テレビのワイドショーでは、水着のモデルさんの身体のツボに、シールをペタペタ貼って、「アッハッハー!」と笑いながら時には強く、時には優しく揉みほぐす様はまさに日本マッサージ会の至宝であった。
マリリン・モンローが新婚旅行で来日した際に、胃痙攣で体調を崩したモンローに素手で触ってマッサージをした唯一の日本人である。
このことについて浪越徳次郎大先生は「そりゃあもう、とにかく綺麗な方でしたよ。いつもより三倍くらい時間をかけてしまいました。アッハッハー」と後にテレビ番組の中で述懐している。
他にも、モハメド・アリや吉田茂首相をはじめとした歴代の内閣総理大臣、A級戦犯を裁いた東京裁判のジョセフ・キーナン首席検事など、国内外の著名人を治療したことにより、日本はもとより全世界にマッサージ・指圧(SHIATSU)を普及させた功績は不朽である。
良く笑う先生で、常にニコニコなさっていて、享年94歳の大往生。
「笑う門には福来る!アッハッハー!」

「函館で神ってる友一が乗るトウケイワラウカドに気がある。土曜日9Rのダンツチェックのレース見たか?何ちゅうか本中華、小じっかりしてらあね。しかも唯一の降級馬。友が軽く捌いて、アレよ、アレよと云う間に、逃げる元気や豊に失礼します!てなもんだ。発表!枠連!軸はトウケイワラウカドで不動。相手筆頭はフルキチ先輩のサトノプライムだが8枠は厄だ。元返しの1万でいい。狙い目は前々でレースを進められる元気の1枠シンコーマーチャンでも、抜けたらアタマに来るから、手広く1.2.4.5.6と平に1万ずつ。儲けは少なくても仕方なかんべ。締めて6万でいてこます」と、日曜日8Rを結論付けた。

「3.4コーナー中間!逃げるシンコーマーチャン!外から楽な手応えでトウケイワラウカド!4番手!3番手!」
スタートで強敵と思っているサトノプライムが出遅れて、「ヨッシャ!」と一声掛けたマスター。
更に、トウケイワラウカド余裕の進出に、「オラオラオラ!友!そろそろ行こうかァ〜!」とくわえ煙草で声を掛ける。
「直線コースを向いた!先頭は逃げる!逃げるシンコーマーチャン!その外からケルンウイナー!更にその外!トウケイワラウカドが並んで前3頭!残り100!トウケイワラウカドが抜けた!ケルンウイナーが2番手!内からシンコーマーチャンが差し返す!先頭はトウケイワラウカド!ゴールイン」

トウケイワラウカドのパーフェクトな勝利に、神戸元町ウインズに出張っている、熊本天草出身の◯原さんから、すかさず繋ぎが入る。
「マスターさん!おめでとうございました」
「うむ、まあ〜そりゃ〜いいんだけどよ。安かんべ?」
「直前のオッズで8.3倍です」
「………….俺ぁつくづく自分が嫌になった。サトノプライムはカモ。相手は一枠1番シンコーマーチャンと云いながら、枠で6点も買うなんてよ〜。こんなレースは漢度胸の一点勝負!馬連は無理でもシンコーマーチャンとのワイドに5万はいてこまさなきゃダチカンだろう。6万買って払い戻しが8万と3千か。なんてこったい」といい泣きが入っている。

マスター!当たればいいんじゃないの。
笑う門には福来る!アッハッハー!