北新地競馬交友録

マスターもつらいよ

赤貧洗うが如しで、いい歳なのにお金がまるでないマスター。
若ければそれこそLAWSONで、チンドン屋みたいな服を着て、小銭でも稼ぐのだろうが………時間だけは売るほどある。
夜の帳が下りる頃に、北新地の店に通う以外は全て自由時間だ。
その有り余る時間を使っているのが、シネマと読書。
シネマはTSUTAYAで新作なら4本借りて1千円。
旧作に至っては、一本百円なのだからただみたいなもんである。
一週間で平均して10〜14本のペースでシネマを見ていると、流石に見る作品がなくなって来た。

「邦画をダメにしたのは寅さんだ!」
練りに練られたストーリーや洒落た台詞が散りばめられた洋画に比べると、どうにも見る気にならないのが邦画。
その代表作が『男はつらいよ』だと思っていたのだが……..これが意外と心を安らかにするのに気が付いたのは、「もう、見るシネマがねえ!どうせつまんないだろうが寅さんでも見るか」つい先日の事だそうな。

日本全国をタンカ売いをしながら旅する寅さん。
毎回マドンナと云われる、旬の女優さんが出て、お約束で恋をして振られるないしは、自ら身を引く寅さん。
『男はつらいよ 奮闘編』のマドンナは何とも初々しい榊原るみちゃんだ。
めんこいのめんこくないのって、整形なんて言葉がほとんどなかった時代の、まごうかた無き正真正銘の美少女である(^ν^)

そんな淡く切ない恋を巡る話しが『男はつらいよ』の軸ではあるが、見ていて楽しいのが、寅さんのタンカ売いの口上。
タンカ売いとは簡単に云えば路上販売である。
「巡り会いが人生ならば、すばらしき相手に巡り会うのもこれ人生であります。盛者必滅会者定離、会うは別れの始まりと誰が言うた。眉と眉の間の『いんどう』お嬢さんあなた、ここがすばらしく輝いております。いい愛情に恵まれておるかもしれない。いい愛情に恵まれておるかもしれない。しかし、月に群雲、花に風、一寸先の己が運命分からないところに人生の哀しさがあります」
道ゆく人達に歯切れ良く、何やら怪しげな人相、手相の本を売りつけようとする寅さん。
「マジだよな〜。一寸先は何が起こるやら……」と土曜日の午後マスターが呟いた。

「先頭はサトノマルス!内からフォーアライター!大外から9番のレインボーフラッグ!」
最近足繁くマスターの店に通ってくれる個人馬主さんで、京都馬主協会会員でもあるMさんのファンド馬レインボーフラッグ。
スタートで安目を売って堂々の最後方追走、3コーナから一気に捲りをかける随分と乱暴な競馬だが…….。
「どりゃ!フトシ!フトシ!まとめて交わしちまえ!フトシ〜」
「横に4頭並んでいるがレインボーフラッグが抜けた!粘る!粘るケンフォアヴァルト!間からは1番フォーアライター!レインボーフラッグ先頭でゴールイン!」

京都7Rレインボーフラッグは確かに強かったが、単複じゃ付かないと、池添Jのスマートスペクターをワイドの相手にチョイスしたマスターの馬券は、鼻も噛めないゴミと化した(´・Д・)」
「あ〜あ、謙一も何やってんだか、フトシが上がって行くのに併せてテメーも上がって行かなきゃどうしようもねえだろが。へ!9頭立ての6着ってか。嫌んなるぜ」
寅さんの『男はつらいよ』ならぬ『マスターもつらいよ』なのである。
バット!日曜日、同じくMさんのファンド馬、6番人気ラルーズリッキーが激走。
『葵ステークス』で、神戸元町ウインズの底が抜けるじゃないと云うぐらい、大興奮状態に陥るお話しは明日です。

皆様、お付き合いの程、宜しくお願い申し上げます。