北新地競馬交友録

大荒れ!

「普段怒った事がない人が怒ると恐ろしい」とはよく云われる事。
常日頃との落差で、恐ろしく思うんだろうが、確かにこの人はこんな人とのイメージが覆ると、「あれ〜?」と驚いてしまう。
元々、どうせあの人の事だからと思っていたら、何があっても驚かないし、勝手にやっとけ!てなもんだが……….。

「デンコウアンジュがボジションを上げて行きました。今回は前々でのレース」
スタートで安目を売ったデンコウアンジュが、前走のように末脚に賭けるかと思いきや………。
「何やってんだ。あ〜あ、出遅れて焦りやがった。気合い付けたもんだから引っかかってんじゃねえか。やんなっちゃうぜ」と、マスター両手を広げでダメだ〜のポーズ。

じっとモニターを見ている、マスターの競馬友達K君はまんじりともしない。
「4角を回って外からメジェルダ、その内からメジャーエンブレム楽な手応えだ。デンコウアンジュも懸命に追いすがる。メジャーエンブレム抜けた!メジャーエンブレム圧勝だ!」

オツムの体操で『ドリル』でもやったらと揶揄されてるマスターとはえらい違いなのがK君。
日本で3番目にオツムのいい大学を出て、誰でも知っている企業に勤めている。
その記憶力たるや半端ない。
レースの位置取り、はたまた馬体重、上がりのタイム等々。
人間コンピュータークラスの優れもの。

そのK君が惚れ込んだのが、デンコウアンジュだ。
週の初めでは血統がどうのこうのと否定的な発言を連発していたが、ジックリ研究をして、前走『アルテミスS』の末脚に魅了されてしまった。
「上がり33.3はとてつもない脚です。阪神の1600は差しが決まりやすいコースですし、中段からでも充分突き抜けます」

「やれ、ディープインパクトだ、ダイワメジャーだ、ステイゴールドだ。そったらお嬢さんには興味がねえ。種付け料50万メイショウサムソンが送り出すど根性娘に気がある」
落ちこぼれ大好きマスターとは、まるで違う理由で馬券を、男度胸の単勝勝負していた。

「あんな乗り方酷過ぎますよ」
ガックシ肩を落とすK君。
「まあな、だけんじょ、一瞬3着はあるかの体制。能力は間違いなくあるぜ」とマスター。
「…………..」
先週に続いて負けて、皆勤賞と云えば聞こえがいいが、懐の事情でいつもの台湾料理屋さんでため息ばかり付いている。

アイホンをさわっていた○原さんが、「あ!K君。ジョッキーのコメントが出てますよ」
マスターがやめとけ!やめとけと目で合図を送るも…….。
「ハナに行っている馬が出てきて、あれでグシャグシャになりました。気持ちも何もなくなってしまいました。ですって」

これを聞いたK君が怒った。
「何云ってんですか。他の馬のせいにするなんて許せません!あのジョッキーは2度と乗せて欲しくないです!」と云うなりマスターが止めるヒマもなく、紹興酒のロックをグビリ。
(因みにK君はお酒が飲めない)
グラスをテーブルに打ち付けたんだから大変だ。
これには○原さんも、良子さんも飛び上がって驚いたΣ(゚д゚lll)

「K君、あんまし怒んなよ。確かに潔く良くねえコメントだが調教師も、厩舎関係者も、馬主もレースをしっかり見てら〜ね。そして決めるのは彼らよ。俺達には何の権利も権限もねえんだ。俺は次も買うぜ。いい馬だと思うもの」
「…………………」
K君、カラになったマスターのグラスに、紹興酒をついでまた一気。
「普段大人しい奴が怒ると怖えな〜」と亀のように首をすくめるマスター。

大荒れだ!(≧∇≦)