北新地競馬交友録

飛び込む

大手製薬会社の日本人男性が『反スパイ法』違反の容疑で、かの国の当局に拘束された。
帰国直前の空港でガラを持ってかれたと云うのだから穏やかではない。
そもそもこの人物は、スパイどころか駐在歴20年以上のベテラン社員で、かの国に進出する日系企業の団体『○○日本商会』の幹部を務めたこともあるそうな。

ごく普通の人物どころかこのような友好的な人物でも、公共施設の写真撮影や、街中で地図を広げたりするのはご法度。
登山や散歩ですら情報収集と疑われるケースがある。
更には、現地民のたむろしている、食堂やバーに出入りしていると、それだけで疑いの目を向けられると云うのだか無茶苦茶。
極め付けは密告の推奨。
匿名でも受け付けていて、重大な情報には最高約200万円の報奨金を、どうぞ、どうぞ。

ここまで酷くなかった時代には、企業が進出するのは市場規模や、人件費の安さから致し方ない面があったが、事今に至っては逃げるが勝ちだとしか思えない。
バット!この後に及んでまで、まだ進出を考えている企業が少なくないのだから、驚くしかない。
自ら死地に飛び込むとはこの事であろう。
自分達が儲かるとなれば何でもあり、大富豪ジャックがどんな目に遭っているかを知らないのなら、単なる情弱と馬鹿にされても仕方あるまい。

そんな中、ニホリカのお偉いさんが、彼の国を訪問。
てっきり、理由も告げられず拘束されている、自国民の解放を直談判するのかと思いきや。
握手をしながら、えへら笑いを浮かべているのだから、その映像には腰を抜かした。
懐に飛び込むのに必死、雉も鳴かずば打たれまいの人間が代表で、ご機嫌伺いに馳せ参じているのだからどうしようもない。

17万人以上に登るニホリカの民を、いざ有事の際に助け出す方法はない。
はっきり云えば人質である。
ニホリカの企業や駐在の方々、えいやー!で飛び込む前に、再考すべきなのは当然の事だと思うのだが。

「なんじゃ!ありゃ。化け物じゃねえか。」
北新地の盆暗が、阪神競馬場の馬主席で吐き捨てるように云った『桜花賞』。
まず届かない位置から、常識ではあり得ない鬼脚でリバティアイランドが突っ込んで来た。
15名を超える応援団が詰めかけた、京都馬主協会会員さんの愛馬ハーパーは、一旦脚色が鈍ったように見えたが、渋とくもう一脚を使っての4着。
成績は立派だったが、馬券は全てパー。
被害甚大となったのが、先週日曜日の話しである。

「マスター、おはようございます。」は、プライム企業に勤めて、余裕綽々のK君。
馬券で少々やられても、びっくりもしゃっくりもしないのは、寄らば大樹の陰を地で行っている。
片やその日暮らしのカナカナ蝉は北新地の盆暗。
一つ間違えれば、真っ逆さまに落ちてデザイヤーのアキナ中森状態だ。
せめて本業が好調ならともかく、大きな声で北新地を闊歩しているのは対象外の若手達なのだから悩みは深い。

「今年の『皐月賞』は大混戦。なにから買ったらいいか判りませんね。」
「ああ、このレースはNASAのスーパーコンピュータを持ってしても当たりを引くのは難しい。其々が手前の好みで買うしかねえが、一番お利口なのは、ケンして他の堅そうなレースの馬券を買う事だろう。バット!G1だしな〜、牡馬クラッシック第一弾だしな〜。買うとしたらボックスしかねえだろう。一頭軸で買うなんて事は、おっとろしくて出来ねえよ。」と弱気。

「馬連ですか?」
「イエス、内から武史のソールオリエンス、レーンのフリームファクシ、ルメールのファントムシーフ、岩田の小倅シャザーン、裕信ベラッジオオペラ、豊タッチウッドまでの6頭15点一目3千。中途半端はやめてのチヨ奥村で豊のタッチウッドの単勝を5千で締めて5万両だ。取りガミもあるが、とにかく当てなきゃな。」
「松山Jのタスティエーラは見切るんですね。」
「これ以上、それも怖い、あれも怖いじゃ馬券にならねえもん。」と結論付けた。

かの国のリスクを知りながら飛び込む企業も馬鹿だが、外れても外れても馬券を買い続ける北新地の盆暗は、もっと馬鹿なのは間違いない。
まぐれでいい当たって欲しい。