北新地競馬交友録

人様の懐

延び放題の髪を丁髷に結い、はだけたシャツからは胸毛。
弛緩した腹回りがシャツを圧迫している。
膝の抜けたジーンズもどきに、へたった靴。
どこのおこもさんかと思ったら、NYにいる元海の王子だと云うのだから驚きが隠せない。

つい先日、今年2月に再度ニューヨーク州の司法試験を受けたものの『不合格』だったことが判明した。
ニホリカで世話になっていた弁護士事務所には、「あと5点が足りなかった。7月に再度トライします。」と伝えたらしいが、あくまで自己採点。
足りないのは5点ではなく、元々のオツムではないかと云われても仕方があるまい。

留学先の『フォーラム大学』では、その学年で、ウルトラ優秀な学生ただ1人に支給されるマーティン奨学金をゲット。
そんな優秀な人間がまさか司法試験に2度も続けて落ちるなどとは、お釈迦様でも思うまいだ。
バット!あのNYで佇むおこもさんのような姿を見て納得。
まるで覇気がないのが、透けて見える。

少なくとも、我がニホリカのやんごとなき家の方を迎えた男の姿ではない。
まあ、本人は、あ〜でもない、こ〜でもないと適当な事を云って、持参金で食い繋ぎ誤魔化していたら、その内何とかな〜るだろう〜の植木等状態だろうが………..。
お〜い!王子!人様の懐ばっか当てにすんじゃない!ビザも切れるぞ!

「ピンク!頼む!南無三!」テレビを相手の片手拝みも不発。
『桜花賞』で、本線、枠の8ー8以外は全て元返しでいいと恥を忍んでの5点張りがまた外れた。
「なんならこのレースは。こちとら安全策で武史のナミュールが飛んだ時は、デムーロのサークルオブライフ。万が一の波乱でも、ドン!と同じ8枠に控えるはルメ公のフォーラブリューテで万全を喫したのによ〜。しかもだぜ、7番人気、3番人気、6番人気で3連複がわずか1万千と740円。ナンボ何でも安過ぎやしねえか。怪しい!絶対に怪しい。レースの前から結果を知ってる奴らがいるんだぜ。」

「そんな事はありません。JRAは公正競馬ですから。いい歳して馬鹿な事を云わないでください。そんな与太話を飛ばしていると出禁になりますよ。」と競馬友達のK君に日曜日の朝から嗜められているマスター。
いつ当たったか完全に記憶のかなたで、ひょっとしたら今年になって一回も当たってないんじゃないかとすら思いだしている。
猫真っしぐらならぬ、北新地の盆暗街道真っしぐらなのである。

「さあ、さあ。牡馬クラッシック第一弾『皐月賞』です。今日こそ当てて流れを変えましょう。」
「買わんといけんの?」
「え?買わないつもりですか?北新地の勝負師なんて云えなくなるじゃないですか。」
「勝負師なんて滅相もない、北新地のチキン。香川県丸亀の『一鶴』ちゃんで充分だ。毎週張っている5万がありゃ〜10羽は余裕のヨッチャンでイート出来んじゃねえの。それにユーに預けてる購入代金も底をついたしな。今週は休もう。うん、そうしよう。」

「情けないな〜。判りました。5万円、ある時払いの催促なし。立て替えときますから。」
「それを早く云えよ。」
「…………….。」
「発表!3連複フォーメーション。一列目、ニ列目、三列目に内から、将雅のダノンベルーガ、豊のドウデュース、ルメ公のイクイノックス。三列目にプラス2.4.10.13.14.16の19点張り、一目2千と5百。中途半端はやめて、武史!しっかりせい!キラーアヴィリティの単勝を2千5百。」とスラスラと買い目を空で云ったそうな。

どっかの王子と同じで、口先三寸で人様の懐を当てにしていると、後ろ指を指されてもしかたないマスター。
神様が味方するとは、とても思えないのだが……..さて。