北新地競馬交友録

コホーネス

愛読して止まない沢木耕太郎の『王の闇』の中でも、一番ハートに突き刺さるのが、ボクシングの輪島功一に迫った『コホーネス<肝っ玉>』。
柳済斗を劇的な15回ノックアウトで倒し、三度目の王座に就いた輪島は、チャンピオンのまま現役を引退するよう周囲から強く勧められる。
バット!輪島はその申し出を拒絶し、防衛戦に挑み敗北。
三度目のチャンピオンから陥落した時、輪島はすでに33歳という年齢で、流石に周囲の誰もがこれで引退だろうと思っていたにもかかわらず、その1年後。
輪島はまたも四度目の王座を目指してリングに上がり、11R、セコンドからのタオル投入で無残に敗れ去る。

後日、試合の傷が癒えて杯を合わせた沢木に輪島は、「ハッピー・エンドさ」と呟く。
あれだけ酷い負け方をしたのにと驚く沢木に、「俺はいつまでやったとしても、ああいう終わり方で終わる俺しか想像できなかった。メチャクチャ、ボロボロになるまでやりつづけ、墜ちるとこまで墜ちて、そしてやっとひとつのことをおえられる。そうでなければどうして納得ができる。どうして後悔せずに終えられるんだ...」と。
沢木は、「この男には間違いなく『コホーネス』がある。コホーネスとは、ヘミングウェイが愛用したスペイン語で、男性器を意味する。転じて肝っ玉あるいは勇気を意味するようになったともいう。失敗しても、失敗しても、完膚なきまで打ちのめされてもなお闘いつづける男。輪島はコホーネスのある男だった。肝っ玉のある男だった…。」と結ぶのである。

我らが安倍晋三首相が辞任の意向を会見で表明した。
持病が悪化したことなどから国政に支障が出る事態は避けたいと辞任の理由を自ら説明。
政治家や評論家からは、労いの言葉が次々と発せれ、否定的な事を云った野党の議員は大炎上で火ダルマとなった。
しかしである、7年半に及ぶ政権で穏やかだった前半はイケイケドンドンだったが、後半はモリカケ、文書改竄、官僚の忖度、桜を見る会とスキャンダルのオンパレード。
追求されると野次を飛ばし、最後は開き直って横になる始末。
確かにオツムのレベルは兎も角、大悪人と云う訳ではなく可愛げもある。
病気で大変なのも、私自身が数年前に患った病魔の後遺症で苦しんでいるので理解も出来るのだが…….。

この会見は当初、新型コロナウイルス対策について、政府の方向性を発表すると云われていた。
具体的には、『2類相当』から一般のインフルエンザ並みの『5類』に引き下げ、医療や保健所の崩壊を未然に防ぐ。
現在の数字を見れば、その脅威はインフルエンザとほぼ同等。
とてもじゃないが、GDPが年率27.8%も下がるような病いではないのは明確だ。
無症状でも隔離、入院を基本とする現在の状況が改善されるのはもちろん大きいが、一番の効果は、恐怖を煽り続けるマスコミに翻弄されている国民へのメッセージとなる事だ。
「3日連続の200人超え!」「速報!〇〇県で新型コロナウイルス患者を2名確認!」「【国内感染】845人感染 11人死亡」。
即座に届出が義務化されている2類が、7日以内の届出が必要な5類となれば、マスコミはクイックリーな煽りが難しくなる。

全国の知事達から、いくら反対されても、『Go To Travel キャンペーン』を強行した政府。
尾身茂分科会会長に、「新型コロナウイルスが“2類相当”として扱われているために、軽症・無症状でも報告されると行政機関は、例えば(陽性者に対して)1日に2回電話をしなくちゃいけない。1週間で14回電話することになる」。
「感染症の実態というのがこの半年間でずいぶん分かってきた」
「実態に合うのか合わないのか、現状のメリット、デメリットについて検証、議論をすべきではないか」と発言させた政府。
今後、新型故の変異で強毒化する可能性はないとは云えないが、ほぼ見切っているのは間違いない。
このまま、国民が縮こまっていたら国の存亡に関わるのは明々白白だし、感染を完全に押さえ込む事が出来ないのは、ここ数日のKoreaを見てもはっきりしている。

辞める段になっても、「新型コロナウイルス感染症については、感染症法上、結核やSARS(重症急性呼吸器症候群)、MERS(中東呼吸器症候群)といった2類感染症以上の扱いをしてまいりました。これまでの知見を踏まえ、今後は政令改正を含め、運用を見直します。」と問題を先送りし、次の総理大臣に責任をおっ被せている。
つくづく思うのである、安倍ちゃんには肝っ玉も勇気もない。
最後のご奉公すらせず、ヘミングウェイが云うところの「コホーネス」のカケラすらない人間が、この危機に半年以上も最高指揮官だった悲劇。
更には7年半も国のトップで、世界では多くの国々が成長したと云うのに、一部の企業や富裕層は大儲けしたが、国民の所得はマイナスでしかなかったと云う悲劇。
「じゃ〜誰がトップになればいいんですか?」と問われると………誰もいない。
まさに、それが一番の悲劇なのかも知れないのではあるが。

「マスター、おはようございます。先週は大変な目に合いましたね。まさかヒボンがあそこまで垂れるなんて。」は競馬友達のK君。
「ヘイ!ユー!朝から嫌な事を云いやがるな。1枠1番で圧を掛けられたのが堪えたんだろう。やられた5万は痛ぇが、馬主さんが知り合いの親父じゃ〜悪く云う訳にもいくま〜が。所詮、言葉も通じねえ動物に、ハミ噛ませてそれ!走れ!やれ!走れ!とやってんだ。人間の思う通りにゃいかねえョ。」
「2週前はご贔屓の幸Jが4着でパー、先週は軸が行方不明で、本線の相手が大楽勝。なんだかチグハグですね。相変わらず店は暇なんでしょう?今週辺り何とかしないと、ローソンの法被を切る羽目に。もっとも最近は、中国やベトナムの若者が優秀で、文句しか云わない日本人はいらないと云われているらしいですが。」
「いいさ、いいさ。そうやって俺をたんと馬鹿にすりゃ〜。ユー!月夜の晩だけじゃ〜ねえんだぞ。」と、朝から不毛な争いを繰り広げている2人なのである。

「いいレースありますか?預かっている資金は3万円ぐらいしか残ってませんが、不足分は建て替えときます。」
「あ、そう。じゃ〜20ぐらいぶちかますか!」
「やめてくださいよ。上限10万円と云う事で。」
「冗談に決まってるだろう。返すあてもねえのに、借金まで背負って馬券買うほど落ちちゃ〜いねえョ。発表!小倉10R『九州スポーツ杯』。連勝中将雅のメイショウカズサ信頼。馬券は3連複、相手内から風馬のエピキュール、ジェントル幸のレディマドンナ、若武者弘平のティボリドライヴ、押して止むマジ竜二のペガサス、良太のタフチョイスの5頭10点張り。一目5千でいてこます。『武士道と云ふは死ぬ事と見付けたり』佐賀っぽの将雅は、愛想が無くて人柄はイマイチらしいが、とにかく肝っ玉が座ってらぁね。土曜日は人気を豪快に飛ばしていたから、今日はカッコ付けるはずだ。」と結論付けた。

ヘミングウェイの云うところのコホーネスを持った政治家がナッシングの我がジャパン。
せめて競馬ぐらいは、川田J!いいとこ見せてくれ!のマスターのようだが……..さて。