北新地競馬交友録

奢れる人は

祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。

沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。

奢れる人も久からず、ただ春の夜の夢のごとし。

猛き者も遂にはほろびぬ、偏ひとへに風の前の塵におなじ。

by『平家物語』


東の銀座、西の北新地。
新型コロナウイルス騒動で自粛を要請されていた銀座に、やっと6月19日に営業再開のお許しがでた。
それに遡る事約3週間前に自粛が解除された北新地が途端の苦しみに喘いでいる。
例えば、「ここの餃子一人前5百円で高いけど美味しい。」なんて店はさて置き、座ってやれ4万だ5万だってクラブはどうにもならない。
会社の接待は禁止、中小企業のワンマン社長も家族や社員への感染を危惧して、完全に脚が遠のいているのだ。

この新型コロナウイルス騒動の前には、マスターの周りにも1000万プレイヤーのホステスがゴロゴロしていたが………..。
それがニャンと!給料が半分、はたまた同伴や動員がなければ出勤する事すら相成らぬと云うのだから穏やかではない。
「ここ味落ちたんちがう?」
酒代と併せたら1人3万は吹っ飛ぶような寿司屋で、ご馳走になっている癖に不遜な事を平気で云っていたホステスが、からあげ君を買ってるなんて洒落にもならない。

「今月は、OLの給料に毛が生えたぐらいしか収入がない。阿呆らしくてやってられへんわ。」
怨嗟の声が彼方此方から聞こえてくるのである。
マスターの店も6月10日に再開したが、ごく一部の馬主さんや、トランプ並みの岩盤支持層のお情けでやっとこさ息をしている有様。
この先真っ暗闇じゃ〜ござんせんかの故鶴田浩二なのである。

「お〜し、そのまま!そのまま!はい!一丁上がり。お疲れニャンコ。」
阪神7Rのプリモダルクは確かに強かったが、当初単勝に5万円を打ち込むつもりが、オッズを見ている内に宗旨変え。
単勝を2万円、複勝に3万円で、如何程の利益も出なかった。
その前の週の『安田記念』も、昼過ぎに枠の1ー4のオッズが1ー7のオッズを逆転。
1ー7に2万円、1ー4に1万5千円を、逆に1ー4に2万、1ー7に1万5千円に変えたら1ー7で決まって堂々のガミ興業。
「なんならこりゃ?馬鹿馬鹿しくてやってられねえぜ。」となって地団駄を踏んだマスター。
要するに新型コロナウイルスのせいで手元不如意、外資導入の目処も立たないとあって、手が縮こまっているのであるʅ(◞‿◟)ʃ

「マスター、おはようございます。先週はプリモダルク余裕の逃げ切り勝ち。迷わず単勝でしたね。」は日本で3番目にオツムのいい学校を出て、一部上場会社勤務のK君。
「ああ、終わってからなら何とでも云えるのが競馬だが、ありには参った、参ったの成田さん。北海道のオーナーブリーダーのJr.にも前日、ただ貰いみたいなレースですね。なんてLINEを送ってたのにョ〜やるんなるかなだ。最近は前の日に抜いたビールみてぇに、キレもコクもねえ馬券ばっか買ってんだからお話しにならねえぜ。」と、朝からお約束の泣きが入っている。

「今日は『ユニコーンS』ですか?』
「そうよな〜、ダートの出世レース、これを買わなくちゃ〜真の勝負師とは云えねえだろう。我がニホリカでやりたい放題、我が家の春を謳歌するフォーリナー軍団。内からデムーロのデュードバン、ルメールのレッチェバロック、レーンのカフェファラオの3頭立てのレースだと思うが、これに待ったを掛けての一角崩しがあるとしたら竜二のタガノビューティーしかいねえ。発表!3連複1ー5ー16が大本線で5万、1ー13ー16と5ー13ー16を各2万、1ー5ー13を1万で勝負を掛ける。」と結論付けた。

ヤケノヤンパチ日焼けのナスビで、G1でもないのに大枚10万円を張り流すマスター。
奢れる人も久しからず、北新地のホステスや村の住人じゃないが、外人Jのワンツースリーで決まるとも思えぬのだが………..さて。