北新地競馬交友録

濃密な時間

漫画家と云うより論客としての位置づけが高い、小林よしのりが吠えた。
東京都の小池百合子都知事が週末の外出自粛を要請したことを受けて「集団ヒステリーは強権発動を大歓迎」と題し、「このままじゃ、減給、リストラ、倒産、失業、自殺の連鎖しかない」、「国全体を保育器にして、無菌の国民を育てるなんて馬鹿馬鹿しい」、「命がかかっていると言ったって、基礎疾患のある老人の命だけだ。そういう老人に治療を集中させればいいのだ。そもそもコロナは風邪と同じだから、感染爆発を封じ込めるなんて無理に決まっている」、「集団抗体を作ることしかない」、「医療崩壊を防ぐために、風邪(コロナ)をひいた若者は自宅で治し、いちいち病院にかからない。基礎疾患のある老人だけを病院は受け入れる。多分、治療薬やワクチンの完成まで1年以上かかるのだろう。すでにインフルエンザとも共生しているのだから、コロナも家族に迎え入れてやればいいのだ」。

ニャンとも過激な発言に取れるが、嘘だらけでまるで信用出来ないChinaの除けば、世界的に感染を止める事能わずの現状を見れば、頭ごなしに暴論と片付ける事は出来ない。
その上で「テレビを見てる一般大衆に向かって、恐怖を煽りながら、節度を啓蒙したって、バランスは保てない。パニックになるのは必然的だ。全く分かってないな」と、政治家やマスコミの無策を嘆いた。
「死生観なき戦後の生命至上主義のなれの果てがこのバカ騒ぎだ。」
異論はあるとは思うが、『新型コロナウイルス』騒動をここまで喝破した小林よしのり恐るべしである。

『死生観』ですぐさま思い浮かべるのは、2011年 民主党政権にて内閣官房参与として原発事故対策、原子力行政改革、原子力政策転換に取り組んだ田坂広志である。
ダライ・ラマ法王、ムハマド・ユヌス、デスモンド・ツツ大司教、ミハイル・ゴルバチェフら4人のノーベル賞受賞者が名誉会員を務める世界賢人会議 『ブダペスト・クラブ 』日本代表。
カレッジはもちろん東京大学、ウルトラおつむの出来がいいが、田坂広志の凄いところは、難しい話しを馬鹿でも判るような平易な言葉で発信しているところである。
どっかの都知事のように、己の教養の無さを隠すために、やたら横文字を並べるような人間とは、一線も二線も画している。
所謂、啓蒙本などは、風呂の焚き付けにしたいミーだが、田坂広志だけは別格なのである。

その田坂広志が云うところの『死生観』。
人生における「三つの真実」に、目をそらすことなく、それを本気で見つめる事が必要だそうな。
「三つの真実」とは、「人は、必ず死ぬ」、「人生は、一度しかない」、「人は、いつ死ぬか分からない」。
この誰も否定できない真実を、直視する。
そうすれば、自ずと死生観は定まると云うのだ。
「三つの真実」、それは知識としては知っていても、その真実を見つめて生きようとはしない。
むしろ、この「三つの真実」を、見つめないようにして生きていく。
そのことを、ある文化人類学者が、いみじくもこう述べている。
「人類のすべての文化は、死を忘れるためにある」と。
鋭い指摘でもある。
なぜなら、死を見つめることには大変な心の苦痛が伴うからだ。

田坂広志はさらに、「例えば、体の調子がおかしいと思って医者に行ったとする。すると診察後、医者が『検査結果は深刻です。』。『では、先生、あとどれくらい生きられますか』というやりとりとなり、『あなたの人生は、あと1か月』と言われたら、誰もが、例外なく、一日一日を、本当に一生懸命生きていくだろう。しかし、不思議なことに、『あなたの人生、あと30年』と言われたならば、『そうですか。少し短いかな』と思うかもしれないが、その生き方は何も変わらない。『あと1か月』と言われるのと、何が違うのか。実は、何も違わない。どちらも一日一日、かけがえのない一日が、過ぎていく。『三つ真実』の三番目を思い出して頂きたい。本当は何も約束されていないのである。もし我々が、『今日が人生最後の一日かもしれない。明日、命が終わるかもしれない。だから、今日という一日を真剣に生きよう』と思い定めるならば、生き方が大きく変わって来る。」と。

死生観を掴めば何が変わるか?田坂広志は一言で云う、「時間の密度がまったく違って来る。」。
時間の密度と云う事ならば、その極みと云ってもおかしくないのが競馬なのではないだろうか。

「G1『大阪杯』で、いっとう買いたいのは、ダノンキングリーだが、屋根が老後の楽しみ、趣味で馬に跨っているような典だからどうしたもんかと。相手は充実一途、『京都記念』でズンナイ競馬をしたクロノジェネシス。これを買いたいが、屋根の友が去年クラブのお偉いさんに気に入られて大躍進。今年はどんだけ勝つかと思いきや、年明けから勝てねえ、勝てねえ。挙句の果てにゃ〜騎乗停止まで喰らってやがんの。馬券でも肩入れして随分とやられたぜ。バット!一生懸命乗っている友にもう一度賭けよう。『高松宮記念』で繰り上がりの3着、テレコ、テレコ五条の橋の弁慶になりそうな気もするが………..単勝に2万、複勝に3万で勝負だ!」と結論付けたマスターだったが。

「第4コーナーから直線!先頭ダノンキングリー、2番手ジナンボー!クロノジェネシスが外から!間を割ってラッキーライラック!ブラストワンピースはその後ろ!」
「友!いけ!いけ!け散らせ友!」マスターの家で関西テレビの『競馬BEAT』と見ながら、ありったけの声援を送るまあまあ愉快な仲間たち。
「ダノンキングリーが粘る!クロノジェネシス!間から!間からラッキーライラック!ラッキーライラックがクロノジェネシスを捉えた!ラッキーライラック!ゴールイン!ラッキーライラックです!」

クロノジェネシスがダノンキングリーを捉える脚色、ガッツポーズで右拳を上げそうになった刹那、内からラッキーライラックの豪脚が炸裂。
喜びの雄叫びが、悲しみ本線日本海に変わった。
わずかコンマ数秒の長い事、長い事。
「マスター、複勝押さえてますから。」と競馬友達のK君。
「バッキャロー!友が頭なら10万以上のおアシがこのお手てに乗っかってんだ。ダノン、ラッキー、クロノの馬連ロータリー馬券を買ってるようなテメエにこの俺の気持ちが判ってたまるか!飲むぞ!恐怖の家飲みを敢行する。何、ボサッとしとるんなら!とっととピザハット行きやがれ。」
「お〜怖わ(≧∇≦)」

愉快な仲間達のたっての願いで、沖縄旅行を後ろにずらして、『大阪杯』応援に切り替えたマスター。
僅か2分足らず、田坂広志も仰反るぐらいの濃密な時間だったが、堂々のガミ興業となってしまった。
馬券愛好家は一日、一日ではない、一レース、一レース、ギュッと凝縮された時間と寄り添っているのである。