北新地競馬交友録

寡黙

先の不幸な大戦以来、初めて海外派遣が実施されたのがイラク。
『イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法』に基づくもので、柱は人道復興支援と安全確保支援である。
活動は『非戦闘地域』に限定されていたが、自衛隊創設以来初めて、戦闘地域ではないかとの論議のある地区に陸上部隊を派遣した。

この派遣の是非は、否定的な意見が大多数のマスコミにより煽動的に取り上げられた。
全国で多くの自治体が反対、あるいは慎重な対応を求める決議を採択したことで、日本国内の論争に更に拍車が掛かった。
純一郎君が「どこが非戦闘地域で、どこが戦闘地域か、私に聞かれたってわかるわけがない」「自衛隊が活動する所が『非戦闘地域』」など、槍投げ発言で更に紛糾の度合いが強まったのだ。

素晴らしかったのは派遣される自衛隊員。
余計なコメントは一切せず、任務を全うすべく異国の地に向かった。
日米の関係を持ってしても、今回はマネーだけで逃げ切る事は出来まいとの覚悟が胸にあったのかも知れない。
武士は寡黙を持って是とする、そんな気概を感じさせる映像に、思わず「ご苦労様です」は、ごくごく自然な感情であったのだ。

「夏の風物詩新潟の『アイビスサマーダッシュ』だが、贔屓の大西の直ちゃんがカルストンライトオで参戦だ。サニーブライアンで漢になるまでは、腕は達者でもシャイな性格で人見知り。寡黙で営業活動がまるで出来ず、中尾のテキも『あいつは腕はあるんだが、口下手で…』と随分嘆いていたそうな。一皮剥けて、逃げの直宏が認知されてからは、乗鞍も増えていい感じだぜ。2年前にこのレースでビシッと決めた再現がある」とマスターひとくさり。

「じゃあ単勝ですかって?220円だぜ、これに根っきりはっきりで勝負する程の根性はねえ。相手は善臣大先生のコスモラブシックと豊は豊でも吉田豊のタカオルビー8枠2頭。この馬連でお盆のレジャー資金の面倒を見て貰う。苦労人、寡黙な直宏が渾身の騎乗をすっから、まあ〜見てなってお父さん。え?石崎のネイティヴハートが怖いってか?確かに力はあるが所詮屋根がローカルだから一枚割り引く。もし来たらゴメンちゃいで仕方ねえョ」
聞かれてもいないのに長講釈はマスターの昔からの悪い癖である。

「外ラチ沿いに先頭はカルストンライトオ!カルストンライトオ!リードが1馬身半ある!2番手はドローアウター!ホワットアリーズンと8枠2頭!ネィティヴハート追い込んで来るが!カルストンライトオ!カルストンライトオ!これは余裕!タカオルビーが2番手に上がる!」
「おっしゃ!デケタ!そのまま!そのまま!そのまま〜」とマスターがトランス状態に突入した。
「カルストンライトオだ!カルストンライトオ!ゴールイン!鮮やかに新潟の直線1000mを駆け抜けました!2年ぶり2度目の勝利です!」

1着 カルストンライトオ 大西J
2着 タカオルビー 吉田豊J
3着 ネィティヴハート 石崎J

馬連が580円も付いて、2点ばりがドンピシャリ。
「あ〜あ、俺も情けねえぜ。こったらレース走る前から結果は見えてんだ。枠の5ー8に全財産ぶち込む手もあったか。さすが一皮も二皮も剥けた直宏は違う。5枠から猫真っしぐらで外ラチまでぶっ飛んで行くなんざ〜、並の胆力じゃ無理ポだ。ビバ!直宏!ビバ!カルストンライトオ!だっちゅうの」
ビッグマウスが炸裂するのは、たまにしか当たらないのだからご愛嬌 笑。

寡黙な自衛隊員が海を渡り、これまた寡黙な大西Jが会心の騎乗をした。
2004年、15年も前の話しである。