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リレーコラム我ら淀人(よどんちゅ)

コラムニスト プロフィール
氏名:川田 重幸(かわた しげゆき)
職業:競馬評論家


競馬エイトの名物トラックマンとして長年同社で活躍。今年同社を退職後も関西TV「サタうま」はじめ、様々なメディアやイベントで積極的に活躍中!

第4回

「祝!三冠!!」

ディープ以来6年ぶり、オルフェーヴルが史上、7頭目の3冠馬に輝いた。
朝から続々と京都競馬場にフアンが押しかけた。
1Rからパドックの周りは馬を見たい人でいっぱいだった。久しぶりに淀が人で埋まった(6万8千人を超えた)。
こんな日は10レースを見て菊花賞のパドックに行くと、前に入り込めないことは今までの経験でわかっていた。とにかく、10レースの始まる前からパドックへ。この時、すでに人の入る余地がないほどパドックは満員御礼。それでもちょっとごめんなさいと言いながら、かき分けてやっと前へ行けた。10レースの始まる前に菊花賞出走馬が1頭づつ姿を現してきた。わいわいガヤガヤ。みんな、一斉に写メールで撮り始めた。初めて競馬場に来た人もけっこういた。話す言葉でそれが分かる。
前の若い女性がどの馬?と隣の女性に話しかけた。
11番と14番と教えてもらってシャッタを切った。後ろの馬が枠に入らなかったと残念がる。実は私もカメラで何頭か押していた。11番が通り過ぎた後、14番が来るまで時間がないから、撮るのが遅れてしまう。ちょっと早目に押すといいんじゃない?と話しかけると、振り返ってにっこり笑った。今度は14番だけを集中的に押して、撮れたと喜んでいた。
14番のオルフェーヴルはダービーの444キロから、神戸新聞杯では16キロ増えて460キロに。そして今日はさらに6キロ増えて466キロ。春のやや華奢な姿からひと回り大きく見せ、神戸新聞杯でもたくましくなっていたが、今日はさらにトモの筋肉が盛り上がり、毛づやも冴えて腹構えもしっかり。
一度使っても適度な気合で落ち着きもOK。心身ともにワンランクアップだ。1頭だけ馬体のバランスが飛び抜けていた。隣の60才ぐらい?なお父さんが〝1頭、抜けているね〟と話しかけてきた。〝ホント、抜群〟と返した。
今日は『サタうま』の振り返りVを奈々ちゃんと一緒に撮り、そのあとサタうまの10周年突入記念のバッグを、抽選で選ばれた1000名様にお渡しすることになっていた。
ウイナーズサークルへ奈々ちゃんと入って行き、外の前列の観衆に右から左までコンニチワと声をかけてまわった。〝川ちゃん〟と言われてハーイと。そのあと〝奈々ちゃ~ん〟一段と高い声が飛び交う。いいよな、きれいな人は、と奈々ちゃんに声をかけながら、今までこの場所で何回か奈々ちゃんと一緒に観戦したことを思い出した。穴馬から入りながら、馬券を取り逃がして残念がる奈々ちゃんに〝せっかく狙った穴馬がきているのに、なんでこの馬(ソコソコの人気馬)をはずしたん?〟と追い打ちをかけたこともあった。あのときは悪いことをしたな、と後で反省したが…。
レース前にディレクターから〝川田さん、今日は最後までしっかり応援してね〟と言われた。自分が推奨した馬がもう来ないと思ったら応援の声が途切れてしまう。今日は大丈夫、来る自信がある。パ~ン、パパパパ~ン。リズム良く、隣で演奏が始まった。奈々ちゃんの拍手に誘われて私も珍しく激しく手を叩いた。3冠馬誕生への思いが叩く手に加わった。力が入りすぎてちょっと手が痛かった。さぁ、レースだ。
オルフェーヴルはスタート良く飛び出した。じわっと下げて中団。1週目のゴール前、馬群の中に入れて行きたがるのをうまくコントロールした姿が飛び込んできた。
いい、いいよ。3角6、7番手から4角では3番手の外に上がり、直線ではズバッと抜け出した。よーし、そのまま来い!池添、池添、オルフェーヴル、オルフェーヴル。2、3度繰り返し叫び、よーし、よーし。ゴール前では、やったやったと手を振り上げていた。
想像以上に強かった。2馬身半のぶっちぎり、いやレース内容ははるかな差があった。衝撃が走った。皐月賞、ダービーも強いと思ったし、神戸新聞杯も敵なしと感じさせたが、今日は次元の違いを実感した。
うれしさのあまり、奈々ちゃんがすり寄ってきた。目の前で見た幸せに、2人で飛び上がらんばかりに喜んだ。3冠馬誕生だ!引き上げるときには〝やった、やったやった〟と大声を出して目の前のフアンと両手を上げて合唱した。みんなと、うれしさを叫び合うと、さらに喜びが増してきた。
池添騎手が池江泰寿調教師と抱き合う姿も良かった。池江調教師さんに〝めちゃ、強かったですね〟と賛辞をいうと〝めちゃ、強かった〟と調教師さんも興奮気味。その言葉がまた、私の心を熱くした。うれしかった。
そのまま直ぐに陽だまり広場へ、奈々ちゃんと走りながら駆けつけた。前を行く先導者に遅れそうになるわ、汗はかくわ。抽選で当たった人達が長い列を作っていた。遅くなりましたと謝って、今からお渡しま~す。一人一人に手渡しながら〝馬券はどうでした?〟と問いかけると〝儲けました〟と言う人の多いこと。〝3連単取りました〟とニコニコ顔も多かった。たくさんの人が、奈々ちゃんと2人で手渡している姿をカメラに収めていた。プレゼントが終わってから奈々ちゃんと一緒にみんなのカメラに向かって〝ガオォー〟を連発した。汗をいっぱいかいていた。
なんともいえない快い汗。帰宅して食事のあと突然、眠気がやってきた。躊躇なく、グスッと寝た。夜遅く目を覚まし、月曜が締め切りのこの原稿を書き上げた。
午前3時をまわっていた。
夜空を眺めると、澄み切った空にたくさんの星が光り輝いていた。
 
4週間のお付き合いありがとうございました。
11月のコラムニストは、栗東の高野厩舎で調教助手をしておられる池江敏行さんです。
皆様、どうぞお楽しみに。
川田 重幸

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