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リレーコラム我ら淀人(よどんちゅ)

コラムニスト プロフィール
氏名:井上 オークス(いのうえ おーくす)
職業:競馬ライター


さすらいの旅打ち競馬ライター。住所は京都だが、年間300日は空き家状態。年中無休で国内外を転戦している。今年4月、KKベストセラーズより旅打ちエッセイ集『いま、賭けにゆきます』を出版。スポニチにGI予想コラム『えい!えい!!オークス』を連載。

第2回

「競馬に夢を取り戻せ」

8月末に「荒尾競馬、廃止へ」という第一報が流れてからも、心のどこかで存続への希望を持っていた。「廃止を覆したい」「存続に向けて、なにかできることはないのか」といった競馬ファンの声も聞いた。
厩舎関係者の声を伝えたいと思って、9月のはじめに荒尾競馬場へ足を運んだ。
「独身ならなんとかなるけど、家族のいる人は、もう限界なんです」賞金や出走手当てを削られた関係者は、廃止に反対する気力をも奪われていた。伝え聞く話で覚悟していたつもりだったが、実際に耳にするとショックが大きかった。
地方競馬を取材し始めてからというもの、「お役所仕事」という言葉を、何度耳にしたことか。県や市による競馬の運営には、限界が来ている。誰も経営悪化の責任を負わないのだから、潰したほうが楽なのだろう。
いたずらに賞金や手当てをカットするばかりで馬を減らし、「経営改善は見込めない」とギブアップする主催者。職を失うホースマン。置いてけぼりの競馬ファン。あおりを食らう生産者。このパターンが繰り返されている。
しかし、と思う。
10年以上に渡って「今にも潰れそう」と言われてきたにも関わらず、高知競馬は続いている。2009年に「夜さ恋ナイター」をスタートさせたことにより、売り上げを伸ばした。なぜ高知競馬は生き残っているのだろう。
高知競馬を初めて取材したのは、2003年の暮れのことだ。「有馬記念のリベンジは地方競馬で!」という趣旨の原稿を書くために、各地方競馬の主催者に電話をかけまくった。その記事が雑誌に掲載されてから数ヶ月後、高知競馬の広報さんから電話がかかってきた。 「よかったら、ファックス番号を教えてください」
それからというもの、当時ブームの真っ最中だったハルウララに関する情報や、イベントを告知するファックスが送られてくるようになった。私はそのファックスを参考にして、いくつかの企画を雑誌に持ちこんだ。
3ヶ月ほど家を空けたときには度肝を抜かれた。受信ファックスがとぐろを巻いていたのだ。高知競馬からのファックスだった。30メートルはあったんじゃないかと思う。
2007年には「黒船賞開催のために」という名目で、支援金を募った。ギャンブルの胴元が寄付を募るなんて禁じ手だと思ったし、延命策にすぎないと思ったが、主催者がなんとかして競馬場を残そうとしていることは伝わってきた。本気で残そうとしたからこそ、通年ナイター開催という大決断を下すことができたのだ。
高知に限らず、厩舎関係者はみんな頑張っている。主催者のやる気の有無が、競馬場の運命を左右する。
中央競馬で未勝利戦を勝ち上がれなかった馬が、地方競馬に移籍して勝利を挙げて中央に戻る。そんな経緯をたどって、重賞を勝つ馬もいる。
地方の深いダートでじっくり鍛えられて、古馬になって花を咲かせる晩生の馬がいる。
地方競馬には、脚元の弱い馬をあの手この手で“もたせる”エキスパートがうじゃうじゃいる。
私はお役所っぽくないところがある高知競馬に希望を見いだす。やり方次第で、地方競馬は輝きを取り戻せるのだということを証明してほしい。民間企業の参入を促すような、ポジティブなニュースを発信し続けてほしい。

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