夢への第一歩

羽月厩舎

 

 

羽月厩舎の持ち乗り調教助手に取材に行って、さぁ帰ろうかというとき。

 

「大変です!僕の担当馬がお腹痛いみたいなんですっ!」

 

と1人の若いスタッフが大仲に入ってきました。

 

 

さきほどまでゆったり流れていた雰囲気は一変して、

みんなでその馬の元へ飛んでいきました。

 

するとその中の一人、あるベテランの方が

おもむろに馬のお腹に耳を当てはじめたのです。

 

「よし、こっちは大丈夫。」

 

そう言って今度は左右反対側のお腹に耳を当てます。

 

「うーん、こっちはダメ。音がしない。

先生に早く診てもらった方がいい!」

 

 

聴診器でお腹の音を聞いたとき、音がしているのが正常だそうです。

通常はそうして聴診器を使って聞く腹音を、

彼は直接耳で聞いていました。

 

獣医師に来てもらうより連れていった方が早いということで
その馬は診療所へと行き、

迅速な対応で事なきをえました。

 

 

この時、馬のお腹に耳を当て音を聞いていた方が

今回私が取材させていただいた和田持ち乗り調教助手です。

 

競馬の世界に入って約18年。

牧場時代には、なついていた馬が助けを求めて

和田さんの元へ突進してきて、踏まれたり

予想外の場所が凍っていて、そこで滑って転んだ馬の下敷きになったりと、

下積み時代にはなかなかのご経験をされたそうです。

 

解散まで所属していた松元省一厩舎で担当していたクワイエットデイのことを聞くと

 

「坂路で、放馬して走ってきた馬に吠えて飛びかかったこともあるくらいの馬なんです。

それがレースにいくと外に馬がいないとふわっと走ってくるんです。

逆に馬群の中に入れたらスイッチが入ったかのように激走してきた!

こういったことにいかに早く気づけるかが、ひとつ大きいと思います。」

 

いま担当しているファルクスについては

 

「この馬は毎日外に出してやらないといけないんです。

でも出たら落ち着くみたいで、

飛行機が飛んでいようが周りがうるさかろうが、ケロッとしてます。

これも早いうちに気付けてよかったかな。」

 

他にも牝馬に接するときは、恋人に接する時のように心がけているとか。

 

そういった会話の端々から

経験から築かれた”職人の勘”のような貴重なものが感じられました。