□■□■□
競馬リポーター 大恵陽子が 「Oh Yeah!!」と感動したレースや馬にまつわるエピソードを
馬主へのインタビューやトレセンでの取材を通してお届けします。
毎月第1週目更新!
□■□■□■□■□■□
第4回目は天皇賞・春であっと言わせたあの馬と担当の調教助手です。
=============================================
祖母に名マイラー・ノースフライトを持つビートブラックが
3200mの天皇賞・春を勝ちました。
ビートブラックと言えば、話題になるのがこの血統。
父ミスキャスト(母ノースフライト)
母アラームコール
父母ともにビートブラックのオーナー関連牧場ノースヒルズマネジメントの生産馬で
この血統を見ただけで、前田幸治オーナーが大切にしたい思い入れのある血統なんだろうなぁ
ということが伝わってきます。
ノースフライトと言えば、安田記念やマイルチャンピオンシップを制するなど
マイラーとして活躍した名牝。
その孫ビートブラックが3200mの天皇賞・春を制したのですから血統というのは不思議です。
担当する林助手は距離適正について
「肩の幅があるし、お腹がぼてっとしていて胴がつまっている。
足も長くはなくて見るからにダート馬だと思っていたのですが、芝の長距離で活躍するとは…
僕の考えが間違っていたということですね。笑」
とおっしゃっいます。
しかし、その見立ては中村調教師も同じだったようで
デビュー戦からしばらくはダート短距離を使われ、初勝利もダート1400m。
ところが続く500万下で惨敗し
「一度芝も使ってみよう」となったのが3歳の4月。
芝の短距離となるとスピードが必要ですし、
元々ジョッキーから「1400mは短いかも」と言われていたことから
芝2200mを使ったところ3着に。
以降、芝の中長距離路線を歩むことになったのです。
500万下を勝った後には、1/3の確率でダービーに出られるということで登録もしていました。
残念ながら抽選には漏れてしまいましたが、当時から期待のほどが窺えます。
そんなビートブラックの嫌いなものは、馬運車。
と言っても、馬運車に乗るのが嫌いなのではないんです。
乗り運動中に馬運車を見るのが嫌いで
見つけると、走り回って逃げようとするくらい好きじゃないんだとか。
競馬に行く時に、自分が引かれて乗るのにはそんな素振りも見せず素直に乗るのに
見つけると逃げ回る。
不思議です。
一方好きなものは、小さくて黒い牝馬。
こちらは好みのタイプを見つけるとよく鳴くのだとか。
ただ林助手曰く
「最近は選り好みをしなくなってきましたけどね」
とのこと、人間と似ているのかもしれません?!
いずれにしても、ビートブラック、好きなものも嫌いなものも、よく見ていますね。
観察力バッチリです。
また噛む力が強く、馬にはニンジンは小さく切って与えることが多いのですが
ビートブラックは切らずに、それも茎の方からまるごとかじれるんです。
そしてカメラ目線もお得意!
見てください、この写真。
カメラを向けただけで自分でポーズを撮っていました。
一緒に写真に収まっているのは担当の林喬之持ち乗り調教助手 33歳。
ご両親がまったく競馬をされない環境で育ち、トレセンに入って今月で丸6年が経ちます。
携帯電話には天皇賞・春出走記念のビートブラックの勝負服ストラップ
そして待受画面は天皇賞・春の口取り写真です。
勝負服ストラップはGI開催競馬場限定としてターフィーショップで売られているグッズで
奥様が買ってきてくださったそうです。
待受画面の写真は、時計やアイコンでビートブラックとご自身の顔が隠れないように
配列をきちんと考えています。
林助手が競馬にハマったきっかけは、TVゲームのダビスタだったようで
それ以降、競馬ゲームは「ほとんどすべてやった」というくらい競馬に熱中します。
ゲーム以外でも、カメラを持って京都競馬場などによく出かけていたそうです。
そして週刊競馬ブックで牧場の研修スタッフ募集の記事を見つけて迷わず応募。
1年間そこで勉強を積んだあと
福島の天栄ホースパークでホースマンとしての経験を積みました。
そんな林助手、お話を聞いている間も終始おっとりというか
秘めたる闘志を持ちつつ、物静かな雰囲気がありました。
そんなわけか偶然か。
林助手の担当するビートブラックもおっとりとした性格で
引っ掛かることはなく、調教でも思い通りに動いてくれる乗りやすい馬なのだそうです。
厩舎では「2歳馬との併せ馬に良いリードホースだ」と褒められているのだとか。
さて、記憶に新しい今年の天皇賞・春は
前に行って持ち味のロングスパートを生かしたいビートブラックにとって
ゴールデンハインドと共にマイペースで大逃げをうつことができ
ビートブラックらしい競馬ができたものでした。
あとは4コーナーを回り、強豪相手に直線どこまで粘れるか…
その時点で林助手は
「いや~、これだけで見せ場できましたわぁ!」
と周りの厩務員たちに言いながらレースを見ていたそうです。
ところが!
直線を向いてもビートブラックの脚色は衰えません。
気がつけば周りの声が聞こえなくなるくらい叫んでいたそうです。
そしてゴール後の第一声は、愛情たっぷりに
「やらかしよったぁー、この馬!」
嬉しい人馬初重賞制覇となったのです。
続く先日の宝塚記念では3番手で先行するも9着。
ネコパンチの積極的な逃げで1000m58秒4の少し速いペースは
ビートブラックには少々キツかったかもしれません。
天皇賞・春を勝った後に凱旋門賞プランが挙がり、登録もされましたが
ロンシャンのゆるい馬場を考慮して、
秋は京都大賞典からジャパンカップ、有馬記念を目標が濃厚なようです。
林助手は
「あの天皇賞・春は、現時点では「オルフェーヴルが負けたレース」と言われてしまう。
それだとがんばったビートブラックがかわいそう。
秋以降また大きなところを勝って、あの天皇賞・春を「ビートブラックが勝ったレース」と言われるようにしたいです」
と秋に向けて気合いたっぷりです。
また、冒頭でもふれた個性的な血統について林助手はこんなこともおっしゃっていました。
「僕、以前ヤマニンセラフィム(母ヤマニンパラダイス)産駒を担当していたことがあって。
その時は同じヤマニンセラフィム産駒でナムラクレセントに会えたのですが
ミスキャスト産駒にはまだ一度も会ったことがないんですよ」
それもそのはず。
JRAで勝ち上がったミスキャスト産駒はビートブラックとクークーダダ(引退)だけなんです。
しかしミスキャスト自身良血ですし、今回のビートブラックの活躍、そして秋の活躍次第では
来シーズン以降、種付け頭数がグンと増えることでしょう。
1頭と1人の秘めたる闘志を燃やして。
秋にふたたび強い競馬が見られることを楽しみにしています。