大恵 陽子 夢への第一歩


ナムラクレセントと房野調教助手

 

 

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競馬リポーター 大恵陽子が 「Oh Yeah!!」と感動したレースや馬にまつわるエピソードを

馬主へのインタビューやトレセンでの取材を通してお届けします。

毎月第1週目更新!

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第2回目は天皇賞・春で戦前、鍵を握ると目されていた

あの馬と担当の調教助手です。

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自由な馬と人です。

 

 

 

 

重賞レースを前にコースで追い切り中

さぁこれから最後の直線!ここからテレビにも映るよ〜!

というところで突然走るのをやめようとするナムラクレセント。

 

「福島厩舎やし、福島記念は勝ちたいな〜」

ということで福島記念を選んだ房野助手。

(まぁ他にも色々理由はあるそうですが説明するのがめんどくさいようです)

 

そんな1頭と1人のコンビがレースに挑むと

なぜだか不思議なレースになることが多いのは気のせいでしょうか。

 

父ヤマニンセラフィム(母ヤマニンパラダイス)というマイナー血統のナムラクレセント。

小倉で3歳未勝利を勝ち上がった後、

夏に再び小倉で2連勝し菊花賞へと駒を進めました。

その菊花賞で3着となったのを皮切りに

2009年 阪神大賞典3着

2010年 天皇賞・春4着

そして昨年2011年の阪神大賞典では念願の重賞初制覇を遂げました。

 

ところが重賞ウィナーとして参戦した昨年の天皇賞・春。

ナムラクレセントの出遅れにより超スローペースとなり

自身も含め先頭を走る馬が5回も入れ替わることとなりました。

また今年の阪神大賞典では途中から逃げたナムラクレセントに

外から並びかけていったオルフェーブルが3コーナーで逸走しまさかの展開に。

 

もちろん

「偶然です」

と房野助手は言います。

しかしある競馬中継の出走馬紹介では

「三日月のメンコが動く時、レースは風雲急を告げます」

そう言われるくらいの印象を私たちに残しています。

 

ところでこの三日月メンコ。

これぞナムラクレセントのトレードマークであり

房野助手の遊び心を表したものなんです。

 

 

 

 

クレセントとは英語で「三日月」という意味。

少しでも多くのファンに愛される馬になってほしいとの想いから

菊花賞出走時に房野助手が手作りしました。

缶やトイレットペーパーなどなにか適当な大きさのまあるいものを見つけてきて

それらを使って布に円を2つ描き三日月型をつくったとか。

もちろん本人の手縫いです。

 

そんな想いが詰まった三日月メンコは昨年の天皇賞・春のあとに行われた

「ファンと騎手との集い」の中でチャリティーオークションに出品されました。

「実際に使ってたメンコが出品されれば面白いだろうし、

喜んでくれるファンもいるんじゃないかな。」

そんな房野助手の期待を裏切ることなく

メンコが出品されるとアナウンスされた瞬間には場内から歓声があがり、

値段もどんどん上がっていきました。

最終的に和田騎手使用のグッズや写真パネルを含んだナムラクレセントセットは

約10万円で落札されました。

 

こうしてナムラクレセントのプロデューサー的なことをするのが好きな

房野持ち乗り調教助手は33歳。

地元・神戸で「真面目な進学校」として有名な夢野台高校で

空手部副キャプテンを務め、全国大会にも出場経験があります。

そして現役で国立広島大学に進学。

ところが3年で中退し、就職した育成牧場で厩務員のことを知り競馬界へと入ってきました。

そしてトレセンに入って約3年経った頃、ナムラクレセントに出会いました。

それから4年半…

今、ナムラクレセントには1つだけ叶えてあげたいことがあるそうです。

 

それはもう一度重賞を勝つこと。

「初めて重賞を勝った昨年の阪神大賞典。

あの時は東日本大震災直後の自粛ムードの中で、

表彰式は一応してもらったけど雨もあってかお葬式みたいな雰囲気でした。

それはそれで仕方ないのですが、もう一度重賞を勝って

本来の華やかな雰囲気の表彰式にクレセントを連れて行ってあげたい!

もちろんクレセント自身はそんなこと分かっていないでしょうけどね」

 

昨年の天皇賞・春以降は蹄の不調などにより

不振にあえいでいました。

復調の気配が見え始めたこの春。

阪神大賞典3着から挑んだ先週の天皇賞・春でしたが

左前脚を痛めてしまい9着。

昨日4日の検査で左前浅屈腱炎と判明しました。

進退を含め今後についてはじっくり考えていくということです。

 

もしかしたら、もうこの夢は叶えることができないかもしれません。

その代わり

「もし引退となれば、小倉で勝ち星が多いから小倉か、

重賞を勝った阪神で誘導馬とか乗馬になれれば、

クレセントの名前が残るから一番いいんですけどね」

と自称プロデューサーは言います。

「難しい馬」という印象の強いクレセントですが

もし誘導馬になれれば、また個性的な活躍をしてくれるかもしれませんね。

 

昨年の天皇賞・春はスタートに泣かされて3着

対照的に皮肉なまでに好スタートを決めた今年は脚のケガに泣かされて9着

届きそうであとイッポ届かないGI。

しかしこのまま「個性派名脇役」の方が

ナムラクレセントと房野助手らしいのかもしれません。