北新地競馬交友録

格差

「もう勘弁してくれ〜」と云いたくなるぐらい使われていたワード『平成最後の………….』が終わると、今度は『令和最初の…………..』である。
元号がユーキャン新語・流行語大賞の対象になるかどうは定かではないが、2019年、もっとも使われるワードが『令和』であるのは間違いあるまい。
そのユーキャン新語・流行語大賞だが、2006年トップ10に入ったのが『格差社会』だ。

社会学者の山田昌弘の著書『希望格差社会』で使われたワードで、新自由主義が産み出した鬼っ子である。
企業間だけではなく、個人同士の自由競争がより良い社会を作りあげる。
また、自由競争を阻害するもの、例えば国による規制、労働組合、労働組合と一体となった護送船団的・日本的経営はなんであれ、排除されるべしとしたのだ。

本来なら新自由主義は実力主義社会で、頑張って結果を出せば、階級移動出来るはずである。
しかし!日本は、一度負け組に落ちれば、どうあがいても勝ち組に這い上がれない。
しかも、そもそものスタートの環境によってハンデを背負えばこれは厳しい。
それを跳ね返す事が出来る人間など、そうそういるものじゃないのは、ごくごく当然の事なのである。

『一億総中流社会』から『格差社会』に舵を切ったのが、はっきり誰の目にも明らかになった、それが2006年だった。

「お父さん!またG1が新しく出来た。『ヴィクトリアマイル』だってョ。なんなら?こんなの馬券愛好家の財布の塵まで叩かせようという陰謀だろう。もっとも、その手は桑名の焼き蛤でケンできりゃ〜お利口なんだが………..敵に背を見せる訳にはいくま〜て。なんせ12回走って馬券圏内を外したのが、去年の『サンスポ杯阪神牝馬S』ただ一度ラインクラフト様がいらぁね。デビューからプリンス祐一がただの一度も手綱を離してねえんだ。そんだけ惚れ込んでるって事ョ。ダンスインザムードが怖いんじゃないかってか?」

「よくぞ聞いてくれた。豊に強奪された手綱が宏司に戻って来た。ここで結果を出さなきゃまた持ってかれると気合充分なのは間違いねえ。しかも去年の『天皇賞 秋』人気薄での強烈な走りからしても、牝馬限定なら力瘤だろう。バット!俺ぁ好きくねえんだ。親父が天下無双のサンデーサイレンス、してから母がダンシングキーだぜ。エアダブリン、ダンスパートナー、ダンスインザダーク、エアギャングスター。どんだけ走る馬出してるんだ。ダンシングキーだけじゃねえ、リーディング断とつサンデーサイレンスは牝馬を選び放題。そりゃ〜走るに決まってるだろうが」

「それに比べてラインクラフトの親父エンドスイープは、回ってくる牝馬の質が一枚落ちる。子供はむちゃんこ走ってるぜ。砂の鉄人サウスヴィグラス、我儘スイープトウショウ、クラッシックロード一直線アドマイヤムーン。でもョ〜逆立ちしたってサンデーサイレンスよりメンコイ牝馬が回って来る事ぁねえんだ。俺ぁ判官贔屓だからョ、ここは何が何でもラインクラフトに、ダンスインザムード、ディアディラノビア、エアメサイヤのサンデー三人娘を撃破して欲しい。ラインクラフトの単でいてこます!」
聞かれてもいないのに長講釈はマスターの昔からの悪い癖である。

「第4コーナーから直線!先頭はマイネサマンサ!オーゴンサンデーが上がって来た!ダンスインザムードは内!内!デアリングハートも来ている!ラインクラフトの赤い帽子も上がって来る!先頭はコスモマーベラスに変わった!残り200を通過!ダンスインザムード!ダンスインザムードだ!外からエアメサイヤ!外からエアメサイヤ!先頭はダンスインザムード!ダンスかエアか!ダンスかエアか!ダンス!ダンスインザムードだ!北村宏司初めてのG1タイトル奪取!」

1着 ダンスインザムード 北村宏司J
2着 エアメサイヤ 武豊J
3着 ディアデラノビア 岩田康誠J
9着 ラインクラフト 福永祐一J
「く、悔しい〜。長ぇ間競馬やってるが、こったら悔しい思いをしたのは久しぶりだ。百歩譲って苦労人宏司のG1ゲッチューは許せる。しかし、よりによってサンデー三人娘がワンツスリーとは。やっぱ判官贔屓だなんて甘っちょろい事云ってたらダミだ。これからは良血サンデー一本で馬券を買う。いい勉強させて貰ったョ」
張った金額が手元不如意で少なかった分、結構サバサバしているマスターだったのである。

『格差社会』が世間で叫ばれた2006年。
競馬にもそれが伝染したかのような『ヴィクトリアマイル』第一回。
もっとも昨今は露骨なほどの『階級社会』だ。
2006年、今よりは、少しはいい時代だったのかも………もう13年も前の話しである。