北新地競馬交友録

大昔の場外にて

JRAで16年ぶりに誕生した女性ジョッキー菜七子ちゃんが、24日に浦和競馬場で初勝利を挙げた際、何者かにサイン入りゼッケンを持ち去られた。
その犯人とおぼしき男が母親に付き添われ警察に出頭したのだが、調べに対し「サインが欲しかった」と供述しているという。
なんでも「KAWASAKI KEIBA」の文字が入ったポロシャツを着ていたらしく、菜七子ちゃんもすっかり騙されたらしい。
計画的犯行かどうかはまだ不明だが、とにかく非常に困ったお方である事は間違いない。

競馬関係者の努力が実を結び、特に中央競馬は競馬場やウインズがとてもキレイになったし、ファンのマナーも格段に良くなった。
バット!ひと昔前はゼッケン泥棒どころか、とんでもない人が跋扈していたのだ。
マスターがまだ20歳を少し越えたばかりの『梅田場外』での事だから、軽く30年以上も前のお話しである。

「どりゃ!差せ!差さんかい。◯◯何やっとんじゃ!」
お昼休みが終わって、競馬オヤジ達がモニターに絶叫する何時もの光景が一変した。
マスターの斜め前にいた初老のお爺さんが、まるで朽木が倒れるかのように後ろに倒れ込んだのだ。
完全に意識がないのがハッキリ判る倒れ方で、頭が床で軽くバウンドするのが見えたんだから、さ〜大変である。

「おい!警備員!救急車や!救急車呼べ!」
横にいたガテン系のお父さんが大声を張り上げている。
「脳梗塞ちゃうけ?動かすな!動かすなよ」と別のお父さん。
ここまではごく普通の展開なのだが、その後が………..。
「ほんで2着は何番や?」
「9ちゃうか?差しとらんで」
「しゃ〜ないやっちゃの〜!警備員!救急車まだかいや」
介抱をしながらも、馬券の事を忘れない。
競馬ファンの鏡のようなお父さんなのである(≧∇≦)

まあ、これは許容範囲だがその後に起こった事を見て、まだ純情だったマスターがビックリこいた。
小柄なオッさんがそ〜っと倒れているお爺さんに近寄るや、手に持っている馬券を取り上げてチラ見。
馬券をまたまたそっと戻した。
「おっさん!ハズレか?」
「ハズレや」
「馬券はハズレるは、倒れるはで塩梅ワヤやな。どうしょうもないやっちゃで」
(何たる!暴言。こんな発言が許されていいのか(`_´)ゞ)

救急隊員が到着したのが、約15分後ぐらい。
その間、倒れているお爺さんを警備員がガードしている周りでは、何事もなかったかのように、馬券オヤジ達が予想に余念がない。
「武邦が逃げるやろ?」
「あかん、あかん、もう爺いやさかいな〜」
「武邦舐めたらえらい目合うぞ!」
(あのね!お爺さん死ぬかも知れないんですよ)

あの馬券を手から毟り取ったオッさんは、もし当たっていたらパクリンチョしたのであろうか?
多分、持って逃げたんじゃないかと思う。
そんな剣呑な雰囲気を身に纏っていたのを、マスターはハッキリ覚えているそうな。
ゼッケン泥棒は良くないが、あれに比べたら随分と可愛らしい犯罪である。
寛大なるお裁きをプリーズ!