北新地競馬交友録

マスターとクラウゼヴィッツ

カール・フィーリプ・ゴットリープ・フォン・クラウゼヴィッツは、プロイセン王国の軍人で軍事学者である。
プロイセンは今のドイツ。
産まれは1780年だから、おおよそ250年前の方である。
このクラウゼヴィッツが書いた最も有名な論文が『戦争論』
もとより戦争なんてやらないに越した事はないが、やるからには勝たねばならない。
戦争の概念、定義、戦略、戦術を事細かく網羅しているが、その戦術の中で、最も戒めている事の一つが、『戦力の逐次投入』
小出しに兵隊さんを送って、戦果を得られないまま、現有戦力がダウンしていく事は、愚策の極みと云いきっている。

かの不幸な大戦で、残念ながらこれが証明されてしまった。
大本営の判断ミスによる、ガダルカナル島への兵力投入が、まさにこの『戦力の逐次投入』
ちょこまか、ちょこまか兵隊さんを送るもんだから、敵を駆逐する事が出来ず、最後は『餓島』と呼ばれる始末。
現地の兵隊さんだけでなく、兵站を担った、輸送船、駆逐艦、潜水艦にも多大な被害が生じてしまった。
陸軍兵学校出身の秀才達をもってしても間違いは起こるのだから、マスターのようなおバカな競馬ファンは、毎週塗炭の苦しみに喘いでも、ちっとも不思議じゃない。

「◯原さんよ〜!俺はマジカル頭に来てんだ。こんな事が許されていいのかよ〜」
「………..マスターさん、何がですか?」
「何が?じゃねえよ。『朝日フューチュリティ』で雄太が乗る、シャドウアプローチが12番人気で単勝が78倍たぁどう云う事でえ。こったらオッズ無茶苦茶じゃねえか。週始めのネットでの予想オッズが28倍よ。それがルメールの乗り替わりが雄太と発表されて、昨日の前売りが78倍だぜ。相撲で云うならルメールが西張り出し横綱なら、雄太も前頭筆頭ぐれえの力量はある。前走『京王杯2歳S』はクリスチャンの下手乗りよ。
前が詰まって、一旦ブレーキを踏んでの3着。力負けじゃねえんだ………..」

最近は普段何があっても「まあ〜仕方ねえじゃん」で全ての事に関していたって淡白。
瞬間湯沸かし器と揶揄された若い頃のカケラもないが、こと競馬、こと雄太の事になると、粘着質さも半端ない。
「◯原さん、『雄太貯金』残高は3万か?」
いつも持ち歩いている、ケロケロケロッピーの手帳で確認した◯原さん。
「そうです。一時は20万になろうかって勢いでしたが寂しくなりました。慎重にレース選んで賭けないといけませんね」

「ば!馬鹿野郎!何云ってんだ。我らが雄太が軽く見られてんだ。こったら事が放置出来るか。京都馬主協会のお偉いさんが水曜日に電話で本人と話したらしいが、調教は時計の出ない時間帯にも関わらず抜群。デビュー前に乗った時と比べて、馬に芯が入って期待出来ますだぜ。しかもマークするのは豊様のエアスピネル一頭。勝つ気で乗りますとまで云ったんだ…….雄太の強気にゃ随分損をさせられたが、今回買わなきゃ買うときゃねえぞ」
「マスターさん、で、お幾ら万円?」
「残金全額。単複各1万、3着以下になったら国会で問題になるぐれえ強い豊様のエアスピネルとのワイド1万だ」

「え!中谷Jが3着外したら残高ゼロになりますよ」と競馬友達のK君。
「上等じゃねえか!馬券は、チマチマチ買っててもどうにもならねえんだ。これぞ!と思ったレースに、根っきりはっきり張るのが勝負師よ。同んなじ額だけ俺も突っ込む。◯原さん頭に来たらナンボになる?」
「200万越えますΣ(゚д゚lll)」
「よっしゃ!それで決めて貰おう」
「マスター!貰おうたって…………」
◯原さんも、K君も思いがけない展開にビックリの神戸元町ウインズ午後1時過ぎ。
ニコニコしてるのは、昔のお嬢さん良子さんだけだ。

クラウゼヴィッツじゃないが、資金の『逐次投入』を断固拒否したマスターの運命や~_~;

続きはまた明日です。
皆様、お付き合いの程、宜しくお願い申し上げます。