北新地競馬交友録

マスターの帰還 その2

希代の英雄ジュリアス・シーザーは、「サイは投げられた」の台詞を発してルビコン川を渡ったが、マスターの競馬友達○原さんも川を渡った。
「○原さんよ〜、いつまでガラケー使ってんだ。そんな時代遅れの物はチャイしなよ。iPhoneて便利なもんがあんだ。ほれ、オッズも色付きで出るし、拡大も自由自在。YouTubeで懐かしのレースを見れるし、JRAのリプレイだって、こんなに大きな画面で見れるんだぜ」

一ヶ月に渡るマスターの説得も、○原さんの頑くなな態度を軟化させるには至らず。
これには、我慢の塊と云われてるマスターも切れた。
「判った!好きにすりゃいいよ。俺はさ〜老眼も進んでるし、○原さんがiPhoneにしたら、さぞかし便利で競馬LIFEが楽しいだろうなと思って親切心で云ってるんだ。その気持ちが判かんねえなら好きにしな。短い付き合いだったな」
これには、流石の○原さんも観念した。

週末に競馬友達K君に付き添われて、三宮の携帯SHOPに。
他社からの乗り換えで、実質はただでiPhoneをGET。
それが、あんまり便利過ぎて、寝る時は胸に抱えて寝てるとの噂まであるぐらい溺愛しているそうな。
「マスターさん、中山4Rタケショウビクターの単勝は3.1、複勝が1.2〜1.6で、3連単の頭固定で………」
「ゴチャゴチャ!うるせえんだよ。こちとら単勝しか買う気がねえんだ」

「オグリのラストラン見ます?泣けますよ」
「○原さんよ〜。おら〜土曜日にニシケンモノノフで大泣きしてんだ。このタケショウビクターが飛ぶような事がありゃ〜、ジャック・バウワーも仰け反るぐれえの非常事態宣言よ。オグリ見て泣いてる余裕なんかあっか!」
マスターの機嫌は頗る悪い。

「よっしゃ!デケタ〜!サンキューベリマッチョ!九十九里浜まで走ってもそのまんま〜!」
最後の直線トウホウハンターを外から交わし、石川Jのタケショウビクターが抜けた。
バット!ハードアスリート、モボーク、マーククロップが御一行様でタケショウビクターを……哀れタケショウビクターは4着だ。

「こんな事が許されていいのか!」神戸元町ウインズの低い天井を仰ぐマスター。
「マスターさん、残念でしたね。これが競馬ですかね。オグリのラストラン見て泣きます?」
「馬鹿たれが!馬鹿たれが!この馬鹿たれが。俺は土曜日から泣きっぱなしよ。何がオグリのラストランだ。俺の人生がラストランになっちまうんだよ!」
「マスター、すいません。○原さん初めてiPhone持って、舞い上がってるんです許して上げてください」
競馬友達K君が必死で取りなす、神戸元町ウインズ午前11時40分過ぎ。
○原さん!寒いぜ。

「マスターさん、電池が赤くなってます」
「朝から馬鹿みたいに見てるからそんな事になんだ。はい、はい。今日はiPhone打ち止めだ。お疲れさ〜ん」
「………….」
「何だよ!その目は?まさか俺にコンビニまで行って充電器買って来いってんじゃないよな。まさかな?まさか?だよな」
「…………….」

「ちゅうも〜く。おくつろぎの所すまねえ。携帯の充電器持ってる人はチョイと貸してくれ。お礼はすっから」
いきつけの喫茶店スタンディングでアナウンスのマスター。
横でペコリーノと頭を下げる○原さん。
あんたたち、マジで何やってるの?
梅田ウインズから命からがら帰還したマスター、人がいいにも程があるよ(≧∇≦)

本日もありがとうございました。
明日も続きます。
お付き合いのほど、宜しくお願い申し上げます。