北新地競馬交友録

『口取り物語』VOL7 俺は身内だ! その3

間の悪い人間と云うのはいる。
電車に乗ろうとしたら、目の前でドアが閉まる。
ホテルのモーニングバイキングで、カピカピになったスクランブルエッグを皿にとったら、タッチの差で従業員が新しいスクランブルエッグを持って来る。
コンビニのレジで支払いをしたら1001円。
ポケットが小銭で重くなるetc……。
まさにマスターがそれだ。

「まだ一度も目の前で重賞を勝つとこを見た事がねえ。『菊花賞』の前に『神戸新聞杯』で予行演習すっか」
わざわざ中京競馬場まで出張ったら………2着。
勝ったドリームパスポートがブラマイ0と仕上がっていたのに対して、プラス10キロ。
明らかに本番『菊花賞』を見据えた作りだったとは云え……….。
「これで本番は万全よ。楽勝でぶっこ抜くから、まあ〜みてなって」余裕とも、負け惜しみとも付かぬ独り言を呟きながらの撤収。

そして迎えた『菊花賞』
「フサイチジャンクだ?マルカシェンクだ?へ!笑わせんじゃねえよ。足んない!足んない!ドリームパスポートとアドマイヤメイン以外は一円もいらねえぞ!物が違わ〜な」
自信の馬連2点勝負。
お金をかき集めて、ドカン!と張り付けた。
「よ〜し!そろそろスパートだ。いてこませ〜」
突き抜けるはずなのに…….伸びない。
まるで伸びない。
『男はつらいよ』の寅さんが、タンカ売していたパンツのゴムより伸びないんだから泣けて来る。

勝っていれば馬主さんの祝勝会に出席しているジョッキー。
マスター達と『菊花賞』の当日に飲んでいるなんて……….残念会が開催された。
「ええ、◯◯ですご存知ですか?銀水?まさかそんな目立つところで飲む訳いかないでしょうが。場所はですね………」
3冠を逃したジョッキーに気を使って、世話役の某テレビ局の方が、小さな声であちらこちらに繋ぎを入れている。
親しい方が12〜3人は集まっただろうか。
「済んだ事は云ってもしかたない。次は頑張る。皆、応援ありがとな」
ジョッキー自らが、沈んだ場をなんとかしようと……..マジ切ない。

2次会、3次会、4次会。
徐々に人が減っていって……残ったのは、東京からお見えで、元々、マスターにジョッキーを紹介してくれたHさん、マスター、ジョッキーの3人だけ。
小腹が減ったからと木屋町のバルでスープカレーを啜るおじさん3人。
なんとも切ない風景だが、勝負の世界の厳しさに身がつまされる。
「俺が馬券一杯買ったから負けたのかも…………..」
「まさか〜、マスター気にしない、気にしない」
Hさんに慰めて貰うも……験が悪けりゃ間も悪い。
『ダービー』に行ってレバ、『皐月賞』で馬券を思いっきり買ってタラ。
ハートにも財布にも空っ風が吹き抜ける。

「もう許さねえ!」
誰に向かってなのかは全く持って不明だが、木屋町をフラフラした足取りで、タクシーを探しながらシャウトするマスター。
まだまだ苦難は続く(≧∇≦)


続きは来週です。
皆様、お付き合いの程宜しくお願い申し上げます。