北新地競馬交友録

『口取り物語』VOL2 3年目の涙 その2

「差せ!この野郎」
「○○!インだよ!イン!外回してんじゃねえよ」
「ヨッシャ!デケタ〜!ハイご苦労さん」
競馬にはシャウトが付き物。
競馬歴35年のマスターも、それこそ若い時は、一般席でオツムから湯気を出してシャウトしていた口。
ところが、馬主さんと知り合いになり、お情けで馬主席に入れて貰うようになってから、シャウト率がめっきり減った。

「△○□◎□△◉ △○□◎□△◉…………」
「マスターなに云ってんですか?」
「差せよ、差してくれ……………….頼ム」
大概は小さな声で呪文を唱えているそうな。
その理由を聞かれて、「5万も10万も買ってる訳じゃねえんだ。馬主席で馬鹿みたいな大声でシャウトする訳にゃ〜いくま〜が。あの行儀の悪いのは誰だ?なんて云われた日にゃ、席を取ってくれた馬主さんの顔を潰す事にならあね」と云う事らしい。

もっとも例外はある。
大阪北新地で馬主さん、競馬フリークが集うBAR『Palms』を営むマスター。
知り合いの馬主さん、騎手、調教師の馬が走っているレースはいいんだと。
馬主になって3年経つも、勝利から見離されている某馬主さんの応援におっとり刀で駆けつけ、パドックを後にしたのが前回の話し。

ダート1200、スタートも決まって好位を確保、直線では早目の抜け出しで押し切る構え。
普通なら「そのまま!そのまま!八坂神社まで走ってもそのまま〜!」ぐらいはシャウトするんだろうが、工藤静香『MUGON•ん いくじなし』だ。
とにかく無事にアタマでゴールしてくれその一念。
馬主さんも、その奥様もシャウトどころか、息さえしてないんじゃないかと思うぐらい固まっていたそうな。

見事優勝!
喜びが弾ける3人組。
「○○さん、オメデトウございます」
「マスターありがと。やったな〜」
「調教から100回走ったら、99回勝つだろうとは思ってましたが、なんせ競馬ですからね。奥様!オメデトウございます」
マスターが声を掛けた刹那、奥様のおメメから涙がハラリ、ハラリ。
3年間の思いが詰まった涙だ。

これには普段は鬼と呼ばれているマスターも、思わずもらい泣き。
「いや〜、馬主さんて大変なんですね。良かった!良かった」
それがちっとも良くない。
マスターの浅はかな考えで、事件が勃発するんだがその話はまた明日。

皆さん!読んでやってください!