北新地競馬交友録

『口取り物語』VOL2 3年目の涙 その1

「なんや〜、NHKマイルを勝った馬主さん。京都のメインも勝っとるがな。大儲けやな」
今週の日曜日、そんな話しが競馬ファンの間では囁かれていたが……..G1どころか一勝するのが本当に大変なのが競馬の世界。

「マスター今度こそ勝てるやろ」
「いや〜堂々としてますね。他の馬と比べたら月とスッポン、提灯と釣鐘、メダカとクジラぐらいの差がありますよ」
500キロを優に越える漆黒の馬体。
とても新馬とは思えない落ち着き。
そして鞍上は追って止むまじ川田J。
もちろん堂々の1番人気で、京都馬主協会会員某馬主さんの馬が、他の馬を威嚇するようなど迫力でパドックを周回していた。
なぜ馬主さんが「今度こそ…….」と云われたかと云うと……….。

「アカン2着や。なんぞの祟りかいな」
「岩○!何が野生の感だ。情けねえったらありゃしねえ。今度気合い入れてやりますよ」
「マスター、岩○知ってんのかいな?」
「もちろん知ってますよ。テレビでですけどね」
「…………….」
馬主を始められて3年。
もう直ぐ4年目をむかえようとしているのに初勝利が遠い。

それこそ、馬群の後ろで楽しそうにスキップしてるとかなら諦めもつくが、今までの持ち馬は惜しいところで勝てないレースが続いていた。
人間で云えば東大に入れる偏差値70オーバはあるのに、チョイ足らずで通らないそんな感じだ。
元々40しか偏差値がない訳じゃないんだから、これは運がないとしか云いようがない。

その馬主さんが、ご自分の出身である大阪の名門高校の名前を付け、満を辞しして送り出した新馬戦。
これで勝てなきゃ、マジで馬主やめちゃうんじゃないかと、大阪北新地で馬主さんや、競馬フリークが集うBAR『Palms』のマスターが、マジ緊張でお漏らししそうになったと云うんだから半端ない。

そしてもうお1人、馬主さんの奥様。
元々、競馬にはまるで興味がなかったが、旦那さんの、「なんで勝てないんや」日々焦燥にかられている姿をこれ以上見たくない。
恐らくそんなお気持ちだったと思う。
緊張でコチコチに固まって、AIBOみたいにギクシャクした足取りで、パドックを後にした3人。

さ〜!この続きは明日だ。