北新地競馬交友録

ウーマンズ馬券

『アナフィラキシーショックとは、何かしらのアレルゲンなどに対して全身性のアレルギー反応が引き起こされてしまい、血圧の低下や意識状態の悪化が出現した状態。迅速な治療を行わないと、死に至たる場合がある。』
ニャンとも恐ろしい病気であるが、暮れも押し迫った師走に、この病気に見舞われたのが、大阪北新地で吹けば飛ぶようなBARを稼業としているマスター。
さすがの12月で忙しかった金曜日の深夜1時を回って店を出て、小腹が空いたと北新地の中華屋でクラゲの酢の物と酢豚をイート。
「マスターお疲れ。たまにはタクシーで帰ったら。」と、太っ腹の京都馬主協会会員さんから、タクシー代をカンパされてタクシーに乗ったまでは良かったが…………。
「た、助けてケロ。全身蕁麻疹が出て、息が出来ない。ダミダ。」

自転車を置いてある駅でタクシーを降りる前からおかしかったが、代金を払って歩きだした時から急激に悪化。
とにかく、息が出来ない上に目までほとんど見えない状態にビビりんちょで119番。
救急車に乗せられた時は、意識消失状態になってしまっていたのだから事は重大である。
気が付いたのは、神戸の病院の病室で、点滴を二本も吊るされてベッドでノックアウト状態。
「気が付かれましたか。良かったです。一時は血圧が急激に低下してかなり危なかったですよ。救急隊員が車の中で点滴をしてくれたのが効きましたね。普通、搬送途中だと揺れますし、あまり点滴はしたがらないのですが、あの人は平気ですからね。いい隊員さんに当たりました。」と看護士さん。
「ほとんど意識が無かったが、女性の隊員さんだったような気がする。」
「そうですよ。仕事が出来るので有名ですから。女にしとくのが勿体ないと云って、『セクハラですね』と一喝された人もいてます笑。こんな事を云うのもなんですが、男性より、女性の方が肝が座ってる人が多いですね。」
「命の恩人だな。時代は女って事か」

半分、あの世に脚を突っ込んでいたマスターが、ポツリと呟く午前5時過ぎ、マジで危なかったようである。

「マスター、○原さんから聞きましたよ。病院に担ぎ込まれたんですって。」
「ああ、どうも黄泉の国の入り口で回れ右!Uターンして来たみてぇだ。まあ、人生のピークは小坊の時だし、格段想い残す事もねえからどっちでも良かったが、悔しいのは土曜日の中山2R、ご贔屓デムーロのベルウッドネイチャと4Rマーフィーのファイブリイフの馬券を買えなかった事だ。金曜日の夜、店で弁護士のT先生、Aお嬢、I社長に貯金解約しても買ってくれ。100回走ったら99回はアタマに来るから。他の馬とはラベルに差があり過ぎる!と宣言してたのにョ。あ〜あ買ってない馬券は良く当たるぜ。」
「…………………………..」
死にかけた癖に、残念がるのは馬券の事だと云うのだから、馬鹿もここに極まれりだが………..。

「体調はどうですか?」
「どうもこうもねえョ。医者は入院して様子を見ないといけねぇなんて、眠たい事を云ってたが、店に大切な予約が入ってるんだ。命があってもマニーがなけりゃ〜死んでるのも一緒だろうが!とエスケイプして来た。発表!今年の総決算『有馬記念』、悩みに悩んでいたが牝馬で行く!勝つのはアーモンドアイかリスグラシューどちらかだ。3連単、一列目に6.9、二列目、三列目にプラス2.5.10.11.14.15の84点各1千。保険で枠の3ー5に3万と5千、5ー5に1万と5千、3ー3に3千。先週の儲けも全部打ち込みたいところだが、おめー達が馬鹿ほど寿司を食ったから残りのマニーを総動員だ!」と結論付けた。
マスター、命を救ってくれた女性救急隊員にあやかってのウーマンズ馬券のようだが……..さて。